特集 | 2016.6月号

アステン特集

風、汗、わたし、夏が来る

誰もがリラックスしたい休日。あえて自分を甘やかさずに過ごす女性たちがいる。気負わず、しなやかに、心と体のスイッチをONにして。彼女たちの夏が始まる。

続けて、強くなって、優しくなる。シンプルな目標が日常を変えた。

 静岡市の林夏代さんが、週に1度、F-バードボクシングジム(葵区新通)に通い始めたのは去年の11月。それまでは、武蔵野音大出身のボクサーという異色の経歴を持つジムのオーナー、ススム浅沼さんの奥さまで、フィットネスコースのトレーナー、浅沼江里子さんが指導するカルチャーセンターのボクシングエクササイズ教室に通っていた。
 「最初からジムに行くのは、少し敷居が高かったんです」と夏代さん。しかし母として女性として、ボクシングを通じて輝く江里子さんに憧れ、思い切って門をたたいた。不安はすぐに解消。今では、大きなサンドバッグのある風景にも違和感なく溶け込み、ボクシングは夏代さんにとって日常となった。
 「大きなガラス窓の前に立つと、隙あらばっていう感じで、シャドーボクシングをしてしまうんですよ(笑)」
 自宅では毎日、入浴前に筋トレやストレッチ、シャドーボクシングなどを2~30分。パートで事務をする会社の机の引出しには、昼休みのトレーニング用に縄跳びのロープが入っている。
 夏代さんにとってボクシングの一番の魅力は、ストレス発散できること。東京生まれの夏代さんは、結婚を機になじみのない静岡市に移り住んだ。
 「実は私、性格的にちょっとネガティブな所もあって、こちらに来たばかりの頃は気軽に話せる友だちもなく、くよくよしたり落ち込んだりしたことも多かったんです」
 そのころ、孤独を紛らすために、たまたま始めたのがテレビゲーム機のコントローラーを持って動作するボクシングソフト。それがボクシングを始める原点となった。
 「今の目標はフォームを美しくすること。小さな努力でも毎日続けることで、精神的に強くなれるし、自信になるような気がします」
 指導する江里子さんも、「たった3分の試合のために、食事制限をして、日々のトレーニングを積み重ねるのがボクシングの世界。プロでなくても、こんな風に一つの目標に熱くなれるってすごいですよね。フィットネスコースは闘いではないけれど、体を鍛えるためにヨガでもエアロビでもなくボクシングを選んでジムに来てくれた女性たちを、心から応援したいんです」と、強く優しく支えてくれる。友人のいなかった静岡で、江里子さんや、同じボクシングを愛する仲間たちにも出会えた。夏代さんはこの夏から、ジムに通う日を週2回に増やすつもりだ。

7月、初めてのトライアスロンに挑戦。まずは自分の「限界」を知ることから。

 静岡市清水区で、企業のシステム室に勤務する鈴木文子さんは、この7月、水泳(スイム)1.5㎞、自転車ロードレース(バイク)40㎞、長距離走(ラン)10㎞の、2016大井川港トライアスロン大会に挑戦する。オリンピックディスタンスと呼ばれるこの競技は、文子さんにとって初のトライアスロン。現在は、会社の休日を使い黙々と一人でトレーニングに励む日々だ。
 文子さんは、2008年、東京マラソンの中継をテレビで見て、自分でも走ってみたいとカルチャーセンターのランニング講座に入会した。パソコンに向かう仕事柄か、首痛と原因不明の嘔吐(おうと)に悩まされつつも走る楽しさに目覚め、2012年には名古屋ウィメンズマラソンで初のフルマラソンを完走。翌年、県内のトライアスロンクラブが主催する三保スイムラン(水泳と長距離走の練習会)に参加した文子さんは、そこでトライアスリートの女性と出会い、トライアスロンに誘われる。
 「元水泳部で泳ぎには不安が無かったので、以前から何となくやってみたいなとは思っていました。だからつい、フルマラソンで4時間を切ったら挑戦すると宣言してしまったんです」
 その後、2015年3月の名古屋ウィメンズで初の4時間切りを達成。しかし首痛と5㎞走っただけで嘔吐してしまう体調不良が続き、なかなかトライアスロンの準備ができずにいた。
 「去年の9月頃から週1回接骨院に通ったり、筋膜リリースを毎日行ったりすることで体調が回復して、12月のボーナスで自転車を買ったんです」
 スイムとランの経験はあるものの、バイクはまったくの未経験。最初は、競技用自転車の高いサドルに乗り降りすることすらおぼつかなかったという。
 現在は、水曜夜に会社のランニングサークルで走り、土日に自転車と水泳の自主トレというスケジュール。目標は、少しでも速い記録での完走だ。自分の体の限界に挑みつつ、3競技の的確な時間&パワー配分が求められるトライアスロンは、熱い闘志と冷静な判断力の両方が必要なスポーツ。
 「本番ではきっと最後のランを、暑い中、汗をダラダラ流して、なんで私、トライアスロンなんてやろうと思っちゃったんだろうって考えながら走ってると思いますよ」と文子さんは笑った。

「馬と人」で喜びは2倍。馬に助けられて、今の私がいる。

 静岡市内の総合病院で看護師として働く佐藤千佳さんの休日は、乗馬スクールの厩舎(きゅうしゃ)で「今日もよろしく」と、馬とあいさつすることから始まる。乗馬歴3年目を迎える現在のパートナーは、元競走馬の雄のモチ。
 「かわいいですよ。乗馬を始める前は、休みの日というと疲れて寝てばかりだったけど、今はモチに会いに行こうと思うと自然と頑張れるんです」
 千佳さんが乗馬に興味を持ったキッカケは競馬から。競走馬を育てる牧場での人と馬との深い絆に強くひかれたのだという。
 「馬を勝たせたいという人の思いと、それに応えようという馬の気持ち。その関係性に魅力を感じました」
 千佳さんが通う平沢ライディングガーデン(静岡市駿河区古宿)代表の望月政明さんによると、最近は競馬から乗馬に興味を持つ若い人たちが少なくないという。
 とはいえ千佳さんも、最初から馬と心を通わすことができたわけではない。
 「始めて1年くらいたって、ある程度、余裕が出てきたころからですね。馬と私のリズムが気持ち良く合うようになって、どんどん面白くなってきました」
 そんな千佳さんだが、昨年春に一度、落馬という苦い経験も。乗馬中は常にエアバッグ式防護ベストを着用しているのでけがはなかったが、しばらくは恐怖心が抜けなかったという。しかし、そこから救ってくれたのも馬の力だった。
 「当時、乗っていたカクタスという馬に助けられました。恐怖心でリラックスできなくなっていた私に、カクタスの方から優しく私のリズムに合わせてくれて。乗馬というのは、人と馬が信頼し合って初めて一つのスポーツなんだなというのを実感しました。馬と一緒だと、課題を達成できた時の喜びも2倍になるんですよ」
 千佳さんの夢は、おばあちゃんになっても馬に乗っていること。そしてもう一つの大切な願いは、乗馬を親しむ人が増え、1頭でも多くの競走馬が乗馬クラブで幸せな余生を全うできるようになることだ。

香りを味方に!Enjoy スポーツ

 心と体のオン、オフの切り替えに大きな力を発揮してくれるのが、植物から抽出される芳香物質、精油(エッセンシャルオイル)だ。
 「トップアスリートたちの多くが、積極的に香りの力を活用していますよ」とアクトインターナショナルスクール校長、太田奈月さん。試合や競技の前に集中力や闘争本能を高めたり、逆にクールダウンのために使ったり。今やスポーツアロマは、アスリートの競技生活に欠かせない伴走者になっているそう。
 太田さんの今一 番のお薦めは、スパイシーなジンジャーの香りだ。
 「ジンジャーは、 『今日はやる気が出ないな』なんていう憂鬱な日も、やる気エンジンをかけてくれる香りです。ティッシュに1~2滴、ジンジャーにレモングラスやレモンとブレンドして嗅ぐと、よし!がんばろうという気持ちになれますよ」
 ジンジャーは、心と体に温かみをあたえてくる。刺激的な香りは、感覚を鋭敏にするので、集中力が高まり、いつも以上の力を発揮で きるかもしれない。
 「ジンジャーは、 スポーツの後のマッサージにもお薦めです。植物由来のキャリアオイル10mlに、 精油4滴の割合でブレンドオイルをつくり、疲労した筋肉をマッサージしましょう。血行が促進され、体を軽く感じさせてくれるでしょう。リフレッシュが得意なジュニパーとブレンドしてもいいですね」
 心と体の両方に働きかけるアロマの力を味方に、アクティブな休日を楽しもう。

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