特集 | 2019.9月号

アステン特集

身近な人ががんになったら

がんと向き合いながら毎日を大切に暮らしていく人のために、自分にできるいくつかのこと。

「寄り添う」と「同調する」は違う

 一般論でいえば、がんは決して珍しくない病気。様々な治療法が進歩し、決して太刀打ちできない病気ではなくなっている。一度も入院せず仕事をしながら治療を続ける人も少なくない。とはいえ、風邪のような一過性の病気とはやはり違う。病気と共に暮らしていく患者さんに、周囲はどう接し、どう支えていけばいいのだろう?
 「重要なのは、無駄に同調しないこと」と話すのは、数多くのがん患者さんを見つめてきた河村裕美さん。認定NPO法人オレンジティの代表として、女性特有のがんに悩む患者さんの自立を支援し、静岡県内はもちろん東京へも活動の輪を広げている。自身も子宮頸(けい)がんを経験しているだけに、その言葉はリアルだ。
 「よく聞くのが、がん患者さんに寄り添おうとするあまり、同調しすぎて『うちの親戚も乳がんで亡くなって』などという話をする人。患者側からすればどう返していいかわからないし、不安になる人もいます。それに、あの治療がいいとかあの食べ物がいいらしいといった不確かな情報も、言わない方がいい。特にがんと診断されて間もない人はあふれ返る情報に翻弄(ほんろう)されることが多いんです。私の場合も、がんと知らされてからたった2週間で自分の治療方針を決めなければならなかった。そんなとき不確かな情報があり過ぎると混乱してしまいます」

あえて言葉で伝えてほしいこと

 「がん患者さんには、がんである自分を受け止める時間が必要です」と河村さん。病気や治療で容姿が変わってくる人もいるし、元気のない自分を見せたくなくて、人に会いたくない時もある。元気な時はありがたい激励の言葉を、叱られているように感じる人もいる。周りが元気づけたくても、一言で効く言葉の特効薬などないのだ。
 河村さんが考えるベストな接し方は、「手の届くギリギリのところにいて、いつでも手を握れるような距離感」だという。「病気のことはよく分からないけど、何かできることがあればいつでも言ってと、相手を受け止めるスタンス。そしてそれをあえて言葉にしてほしいなと思います。患者さんは心細くなって、今まで一緒にいた友達とも離れていくような気がしてしまう。だから言葉で伝えてほしい。自分のことを考えてくれる人がいると思えるだけでうれしいんです。あとはただ話を聴くだけでいい」

弱っている人がいると気づく想像力

 職場にがん患者さんがいるということも珍しくなくなった。ただ本人はそれまで通りとはいかず、通院するためにできる仕事量が減ったり、トイレに関することなどデリケートな問題が生じたり。周りの配慮がないと働き続けることも難しくなる。河村さんは言う。「自分の仕事を同僚に振るのは本人にとってもストレス。だから上司が健康状態や仕事できる範囲などを詳しく聞いた上で、客観的な立場で仕事を分配するといいと思います。女性の体のことは男性上司に話しづらいですから、誰か女性が間に入ってくれるといいですね。それに、長い会議には休憩を入れるなど、体調への配慮も大事」
 病は誰にも起こり得ること。がんと付き合いながらも力を発揮できる職場を、どう作るかだ。「社会には弱い人がいるという想像力を普段から働かせているかどうかで、意識は違ってくるはずです。私たちが多様性の中に生きていることを忘れなければ、誰に対しても優しくなれるのではないでしょうか」

乳がんになった人も同じように温泉を楽しめたら

 「バスタイムカバー」という肌着を見たことがあるだろうか。乳がんなどの手術をした人が入浴時に胸をカバーできるもの。触り心地もやさしい特製の生地で、すぐに乾くので外さずそのまま服を着ることもできる。厚生労働省など国からも公共性が認められていて、温泉などの大浴場で気兼ねなく着けられる。
 静岡市清水区の温泉施設「駿河健康ランド」がこのバスタイムカバーの無料レンタルを始めたのは2013年。利用客からの「他人の目線が気になる」といった声がきっかけだった。「レンタルされるお客さまがいらっしゃらない月はないですね」と、スタッフの大沼麻衣さんは言う。「売店で販売もしているので、実際はもっと多くのお客さまがお使いのはずです。館内のPRポスターを見て、こんな肌着があるのかと感激して購入したお客さまもいます」
 他にも、毎年10月のピンクリボンデーに合わせて全国のさまざまな温泉施設が共同で行っている「おっぱいリレー」という啓発活動に参加し、人工乳房を温泉に浸けても安心であることをアピールしている。一方、乳がん予防活動にも着目し、セルフチェックの参考になる触診モデルを館内に展示。さらに来月10月5日(土)6日(日)は、駿河健康ランドをはじめとした静岡県中部の温浴施設有志による「SHIZUOKA FUROJECT」が、ピンクリボン運動の一環として各施設の湯船をハーブエキス入りのピンクの湯で満たす。乳がんへの意識を高める活動は着々と広がっている。
 「がんになった人もそうでない人も、同じように大浴場を楽しんでいただけたら」と、スタッフの深澤由希さん。がん患者さんのために何かしてあげるという上から目線でなく、共に暮らしていくこと、私たちはできているだろうか。

取材・撮影協力 /認定NPO法人 オレンジティ 「SHIZUOKA FUROJECT」参加施設

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