特集 | 2019.11月号

アステン特集

私たちの家族の形。

十人十色の人生の背景にはいろんな家族模様があり大きな影響を与えたり、与えなかったりしながら人は一生を歩いていく。歩きやすい道も人それぞれ、家族それぞれ。今月は、身近にいるからこそあらためて考えてみたい家族の話。

法律が定めていること、いないこと。

 家族の形を考える前に、そもそも結婚とは何かというところをひも解いてみたい。静岡合同法律事務所の弁護士、平下愛さんに法律上の「婚姻」について教えてもらったところ、民法で定められている婚姻の大きな要素は「どちらかの姓にする」「同居する」「互いに助け合う」だという。
 「民法第750条に、どちらかの姓にすると定められています。また第752条には、同居し、互いに協力・扶助しなければならないとあります。入籍した場合にはそれらが義務になります」
 どちらかの姓であれば、夫側でも妻側でもいい。また同居の義務があるとはいえ、強制力があるものではないので、単身赴任をはじめとするさまざまな理由で別に暮らしている家族に対し罰則があるわけではない。そもそも法律ができたのは明治の頃。当時、国が国民を把握するために「理想とする家族像」として想定された一つの形が、ほぼ変えないまま今に至っている。
 その他、婚姻していないと、法律上相続権がないが、「遺言を残せば、ある程度望んだ額を、相続人以外の望んだ人にも残せますし、婚姻しなくとも大きな問題はないのではないかと思います」と平下さん。
 「例えば、入院や手術の際、籍が入っていないと家族と認められず、同意書にサインできないのでは...という話も聞きますが、それも法律で決められているわけではなく、それぞれの病院の規定によるものだと思います」
 各種手当てや補助金については各自治体によって婚姻だけでなく、内縁関係があれば要件を満たす場合もあり、さまざまであるとした上で、もし何らかの障りが生じるとしたら、ネックとなるのは法律ではないのかもしれない、と平下さんは話す。
 「おそらく、もっともハードルが高いのは、法律ではなく、世間体という見えない壁だと思うんです」

どちらも選べる距離で家族を築く。

 奥野豊さん(仮名)は、自身は静岡市にある実家に住んで市内の企業で働き、妻と子どもは都心にある妻の実家に暮らす。妻の陽子さん(仮名)が妊娠中に体調を崩したのがきっかけだった。
 「仕事は面白かったけれど、とにかく不規則で忙しく、一度出勤したら途中で帰ることもままならない。そんな日々の中で、妻がそういうことになって、相当負担をかけてしまっていたと反省しました。仕事は言い訳にならない、と」
 陽子さんの実家で出産までお世話になったことを機に、静岡と東京でそれぞれの生活を始めた。以来、休日に月1、2回、豊さんが妻子のもとへ足を運ぶ。
 「妻も私も一人の時間がほしいタイプ。私は今の仕事を続けたかったし、妻は都心の環境で子どもを育てたかった。静岡で一緒に住んで両方が無理をするよりは、二人がそれぞれやりたいことをどちらも選ぼう、と」
 日々の生活を組み立てているのは陽子さんと陽子さんの母なので、豊さんはそこに口は挟まないし、スムーズに行くように協力する。一方、話し合いが必要だったり、陽子さんからヘルプがあったりした時には時間が許す限り駆けつける。時には電話でじっくり子どもと話す時間を取ることも。折に触れ、子どもたちから送られてくる手紙を、豊さんは大切に残している。
 「妥協ではなく、お互いの価値観の違うところもちゃんと丸飲みして、寄り添ったり助け合ったりしていたら20年経っていた、という感じです。そういう距離感でうまくいく家族もあるんです」

選んだ道で、見えてきたこと。

 静岡市の田中あかねさん(仮名)は、20年以上前、結婚を前に婚姻制度について調べてみた。それぞれ親の籍を離れ、新しく二人で戸籍を作るのが婚姻。当たり前で常識と言われているものを前に「もしかして、籍を入れる恩恵ってそんなにないのでは」と感じたという。
 「だったら、籍を入れずにいたらどうなるだろう。試しにやってみようか。そんな軽い気持ちでした」
 子どもが生まれたら大変だよ、手術のとき困るよ。そんな外野の声も、ないわけではなかったが「不都合があった時に改めよう」と事実婚の形で結婚生活をスタートした。子どもは田中さんの籍に入れ、夫とは違う姓で、今も生活している。つまり「何も不都合なことが起こらなかったんです」(田中さん)。
 「子どもがいじめられるのでは、と心配されたけれど、子ども同士は親が入籍しているかしていないかなんて興味もないし、話題にもならない。夫が入院したこともありましたが、手術しなければという時に、入籍してますかとは聞かれない。私たち自身もうっかり忘れてしまうほど、何も起こりませんでした」
 ただ、見えるようになったこともある。
 「幼稚園時代、保護者名簿に私の名前を載せたら『母子家庭に間違えられるかもしれませんよ』と先生から電話がかかってきたんです。だから何?とカチンと来てしまった」
 ふに落ちない気持ちで「そのままでいいです」と返したが、そこで田中さんは気付く。もしかしたら、事実婚だけじゃなく、一人親家庭だから、外国人家庭だから、祖父母が育てているから―それが都合のいい理由として、何の根拠もないまま線引きされてしまう危うさがあるのかもしれない。
 「幸い、わが家は子どもが特にトラブルもなく成長しましたが、もし何か問題を起こしていたら、事実婚と関係ないことであっても、安易に結びつけられてしまうのかな、と。そして、自分自身も無意識にそんな物の見方をしなかっただろうかと、省みるきっかけになりました」
 子どもが成人した今、籍を入れていてもいなくても、一緒に住んでいてもいなくても、その理由に特別な事情があってもなくても、本人たちが納得して選んだ家族の形なら、きちんと尊重されるべき、と田中さんは話す。
 「そのためには、いろんな選択肢があっていいし、どれを選んでも幸せに生きられる、そんな世の中が理想じゃないかと思うんです」

取材協力 /静岡合同法律事務所

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