特集 | 2020.4月号

アステン特集

ご縁あって静岡

縁というのは不思議なもので、思いがけないタイミングで生まれたり、想像とは違う形で広がったり。それぞれのご縁で静岡と関わる人たちから聞く、静岡の話。

東京から 観劇に、人に会いに。

 定住しているのではなく、観光に来るわけでもない、何らかの目的でその地域に関わる人々を「関係人口」という。人口減少や少子高齢化といった問題を、多かれ少なかれ抱える地方の街にとって、中からは見えないものを見つけ出し、何らかの変化をもたらしてくれると期待される「新しい風」。とはいえ、難しいことは抜きにして、自分が住んでいる街を気に入って足を運んでくれる人の話は、誰だって聞いてみたいし、うれしいものだ。
 東京在住の浅見香織さんが初めて静岡を訪れたのは大学生の頃。授業の一環で、東京の演劇祭を手伝い、それが縁で静岡で演劇を見る機会に恵まれたのだ。静岡県舞台芸術センター、通称SPACを知ったのもその時だ。
 「面白そうなお芝居をやっているな、でも静岡はちょっと遠いなと、当時は実際に見に行くには至りませんでした」
 気持ちが変わったのは2011年。東日本大震災を機に「少し遠くても、行こうと思ったところには行っておきたい」と心が動いた。最初は公演を見に年に1回ほど。緑豊かな野外ステージや楕円堂の、都内にはないシチュエーションに魅了された。そして2015年、シズオカオーケストラ主催の「みんなのnedocoプロジェクト」に参加して、静岡との距離がぐっと縮まる。
 「演劇祭の後、公民館や寺院に滞在して、参加者の皆さんと語り合う企画なんですが、その時間が楽しくて。ここで知り合った静岡の人はみんな、全力でおもてなししてくれるんです」と浅見さん。
 「お芝居ももちろんですが、街中に残るレトロな銭湯や、青葉公園のオブジェを見ながら散歩するのも好き。なにより、案内してくれる人たちが本当に街のことをよく知っていて、駿府城公園のこと、街にお寺が多い理由、そんな話をたくさん教えていただきました」
 同じように都内から観劇に来る知り合いと、東京では会わないのに、年に一度静岡で顔を合わせるという不思議な交流も生まれた。
 「北海道から来る人、親子で参加する人、年齢もさまざま。話題も演劇のことばかりじゃなく地元のこと、お互いの暮らしのことなど幅広い。お芝居がきっかけではあったけれど、今では静岡の人に会いに行く感じですね」

© Y.Inokuma

東京から 伊豆のわさび田に。

 東京農業大学の准教授、町田怜子さんと、静岡をつなげたのは一人の大学生だった。受け持っていた学生の実家が伊豆市のわさび農家で、いずれ地元に帰ると話を聞いていた。
 「彼女は卒論に富士山の登山道の神社や茶屋等の文化的資産をテーマにしていたんですが、ちょうど『静岡水わさびの伝統栽培』が世界農業遺産に認定され、伊豆市が『わさびの郷構想』を立ち上げた頃。彼女が就職したコンサルティング会社がプロポーザルとして構想に関わり、私もアドバイザーとしてお手伝いすることになったんです」
 もともと熊本県の阿蘇で農業遺産や地域づくりをテーマに研究をしていた町田さん。わさびの味にもわさび田の風景にも感動を覚えたという。
 「自然の地形や湧水を生かしてうまく造られているわさび田が本当に美しくて。これが長い間受け継がれてきたのだなあと」
 一方で「わさび田を軸に地域活性化を」という構想が、単純に観光客を増やせばいいとはならない理由もある。傾斜地にあるわさび田には大型観光バスが入る余裕はなく、足元がよくないところも多い。生産農家と観光業者を交えたワークショップを開くために、町田さんは幾度も足を運んだ。その中で少しずつ見えてきたのは静岡の人の「情の深さ」だという。
 「対話を重ねる中で、代々家族で続けてきたわさびの生産が、価値がある大事なものであること、それを誰かに伝えていく大切さに少しずつ気付いてくださった。今では顔を合わせるたびに、気にかけてくれます」
 この土地で守られてきた農業と、その環境が維持されることも農業遺産の目的の一つ。今はわさびを通じた交流のきっかけを、さまざまな角度から模索しているところだ。
 「伊豆のわさびを知らない人にはまずその味を知ってもらう。次に、もう少し踏み込み、わさび田の収穫体験などを通じて伊豆の自然を知ってもらう。子どもの頃に収穫体験をした世代は、環境への意識が高いというアンケート結果(伊豆市わさびの郷構想の調査)があります。こうした取り組みを続けることが、将来この地を大切にしたいという人を育むのかもしれません」

埼玉から 静岡のお茶を売りに。

 「海に憧れがあったんですよ」。そう話すのは宮澤正則さん。「お茶の百姓園」ののれんを掲げ、埼玉県から静岡へ通って牧之原茶を販売する。毎月一度、催事場に店を出す三島のショッピングセンターは取材中も客足が絶えない。
 20歳の頃、静岡のお茶を販売する会社の埼玉営業所に就職。お茶のことも静岡のことも知らなかった宮澤さんは、以来20年以上静岡のお茶と関わり続ける。会社はいくつか変わったが、最終的に落ち着いたのは催事場で牧之原茶を販売するスタイル。静岡で仕入れて、東京の百貨店や三島に定期的に出向いている。
 今でこそ、常連客と世間話を交わすほど会話が弾む宮澤さんだが、静岡に通い始めた頃は、あまりのリアクションの少なさに心がくじけそうだったという。
 「声を掛けても試飲を勧めても、誰も飲んでくれないし足も止めてくれない。静岡の人って冷たいのかと思っていました」
 変わり始めたのは1年近くたってから。時間がかかるけれどいったん顔見知りになると「心の声を心の声で返してくれる人が多い」と宮澤さん。商材として扱う牧之原茶は、東京での人気も抜群。「香り、渋味、そしてコクは牧之原の深蒸し茶ならではですね」と今では胸を張ってすすめる。
 宮澤さんとともに店頭に立つアルバイトの酒井理美さんも「海の近くでのんびりしたい」と東京から静岡にやってきた一人。海の話に、そうそう、と宮澤さんが笑顔になった。
 「埼玉は海がないからやっぱり憧れるんですよ。通っていると住みたくなる。そういうところですよ、静岡は」

取材・撮影協力 / 静岡県舞台芸術センター  イトーヨーカドー三島店

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