特集 | 2016.7月号

アステン特集

住み継ぐこと、私の理由。

どう住まうか、は どう生きるかを表すのだとか。さまざまな条件や制約を超えて理想に近い家と出合うのは必然であり、奇跡でもある。

「味のある家」を探して。

 「最初は平屋の日本家屋がいいなと思っていました」。静岡市内に住む青島光宏さんと千枝美さんは、今の住まいとの出合いをそんな言葉で話してくれた。二人ともアンティークの家具や作家ものの食器など「味のあるもの」が好き。すでに手元にあるそれらを、真新しい家に置くイメージが湧かなかったこともあり、中古物件を探し始めたのが1年ほど前。しかし思い描いていたような平屋の日本家屋は希望のエリアにはない。それ以上に「味のある物件という好みやニュアンスを伝えるのが難しくて。築年数のわりにはきれいですよ、という勧め方をされるんですね。そういうものは求めていないと言うと、逆にものすごく凝った造りの家を提案されたり」と光宏さんは苦笑する。
 何軒か探すうちに出合ったのが今の家。築36年、部屋数も広さも十分。古き良き昭和の雰囲気を残した家には、当時まだ前の持ち主が暮らしていた。
 「とてもきれいに住まわれていました。ここで穏やかな暮らしをされていたんだなということが、お話をする中で伝わってきて、こういう人の後なら、続けて住んでもいいかな、と。和室には仏壇もありましたが、それも気にならなかったですね」と千枝美さん。
 湯沸かし器や水道の蛇口を交換し、一部劣化していた壁紙を張り替え、じゅうたんはフローリングに。耐震補強やクリーニング等のメンテナンスはしたものの、極力手は加えていない。「昭和レトロな雰囲気が気に入ったので、使えるものは照明や家具も基本そのままです」
 想定外のこともあった。例えば、窓や扉が今の住宅の規格と違うので、市販のカーテンのサイズが合わない。買ってきたブラインドは自分たちで切って使っている。あちこちに段差があるからバリアフリーではないし階段も急。でも「子どもが遊んでいて汚したり少々傷がついたりしても、そんなに気にならないんですよ」と千枝美さん。明るい口調から、そんなことも含めてこの家は楽しい、という青島家の暮らしぶりが伝わってくる。

自分らしさを表せる家。

 一般的に住宅は、築年数が経つほど価値が薄れるとされる。静岡市葵区にあるアールデザインスタジオのオフィスも築46年の雑居ビルだが、それを感じさせないテイストにリノベーションが施されている。
 「オリジナリティーがあったりデザイン性が高かったりする物件なら、多少築年数が進んでいても気にしない、という若い世代が増えてきていると感じます」と代表の山口芳紀さん。
 例えば、鉄筋コンクリートの建物は法定耐用年数が47年と定められているが、それはあくまでも税金面でのこと。耐震やメンテナンスがきちんとされていれば、いいものは50年、80年と残っていくはず、と山口さん。「きちんと今のライフスタイルに合うように変えれば住み続けられると思っています」
 かつては部屋数が多い方が喜ばれたが、今はもっぱら広いリビングを中心とした住まい方が好まれるようになった。その変化を、間取りにも反映させれば、昭和期に建てられた物件も、今の世代に十分受け入れられる。山口さんが手がけるリノベーションも、物件オーナー向けに空室対策として勧めていたもの。最近では入居者からの「こんな部屋にしてほしい」というリクエストに応える形も増えてきた。ワインセラーを備えたりオープンキッチンにしたりと、構造上の無理がない範囲で、あるものを生かしつつ自分らしく暮らす提案だ。
 ただ、中古物件を選ぶ際にはやはり注意点も。
 「シロアリ等の防虫、そして構造上の問題がないか、きちんと見極めることが不可欠です。ホームインスペクションという住宅診断の専門家に頼めば、表面的には見えない部分もきちんと検査してくれます。そうした専門家の証明書があれば、中古住宅でも35年の住宅ローンが組める場合がありますので、購入の際には専門家に相談することをお勧めします」

求めなければ手に入らないもの。

 出合うべくして出合ったと、家を語る人もいる。静岡市の吉川秀男さんは、長年、市内の中心部に自宅を構えていた。子どもたちが独立した後、庭や畑仕事をしながら自然の中で暮らしたいと考え、古民家を求めて問い合わせていたところ、一軒の家を紹介された。
 「密林みたいにうっそうと草木が茂っていて、それをかき分けて進んでいった先に玄関が見えた瞬間、ただものではない、と直感したんです」
 玄関のたたずまい、ふすまや引き戸など建具の一つ一つに、計算しつくされた職人の技が見て取れた。出窓に映る緑も、洋間から伸びる長い縁側も、和室の3mもある高い天井も、工業デザイナーである吉川さんに「これはすごい仕事だ」と思わせるに十分だった。
 「欄間にウサギが彫られているでしょう。これは因幡の白兎。昔は海に白く弾ける波をウサギに例えたのです。この場所から海が望めたこと、そして施主も大工も波といえば白兎、という教養と知識がちゃんとあったからこそ、作られたものなんです」
 建てられたのは昭和7年。聞けば元の持ち主は市内で医院を開業した人で、戦前から永く別荘として使われていた。昭和56年に古い部分はそのままに、キッチン・居間・寝室などを増・改築し、離れも備えた現在の建物のカタチになったという。
 「自然豊かな場所とはいえ山際で人目につかない静かなところに位置したからこそ今まで残り、古くとも価値ある家をと求めていた私と縁があったのだと思います。この出合いがなければ壊されることになるかも...そう思い、住む事に決めました」
 9年前に移り住み、今は犬や猫と同居。増築部の床をフローリングに張り替えた。引越し早々、雨漏りに遭遇したが、これも自ら修繕し、広すぎる庭も無理せず自分なりに手入れをしている。そうして使い続けていくことこそ住まう意味があり、モノづくりに携わるデザイナーの暮らし方でもある、と吉川さんは考えている。
 そんな家に巡り合うにはどうすればいいのだろう?
 「換気扇などない時代、建具や天井に風通しをよくするための工夫がしてあるのを見つけるとほれぼれします。こうした古いものは求めなければ手に入らない。奇跡のように残されている古くていい建物はあるので、そのこだわりを若い世代の人たちも実際に見てほしい。そこで知った良さを、次の世代にもつなげていってほしいですね」

庭からもリフォームの風。

 庭に手を加えることで、暮らしが豊かになる。そんな提案をしているのがザ・シーズン静岡。マスターデザイナーの大場亮太さんによると、何年も住んだ後にあらためて庭のリフォームを、という依頼も少なくないのだとか。
 「庭木の管理を楽にしたい、外からの視線を遮断したい、といったお悩みを始め、さまざまなご相談をいただきますね」
 大場さんが心がけているのは「大切なものはなるべく残す」こと。木をすべて切ってしまうのではなく祖父母の代からある大きな木は生かしたり、使われなくなっていたウッドデッキを家族が集えるスペースにしたり。既存のものを残しながら新たなものを加えることで、ライフスタイルにも変化や豊かさが生まれる。「ガーデニングに興味がなかった方から、庭に出るのが楽しくなった、新しい趣味ができた、という声をお聞きすることもあるんです」
 変えることで生まれる価値。まずは庭から、という方法も。

取材・撮影協力 / R DESIGN STUDIO 環プロダクツ ザ・シーズン静岡