特集 | 2016.12月号

アステン特集

てのひらにイブの星

ジュエリーはその人自身を語るもの

 美しさにため息、そしてプライスタグのゼロの数にもため息。私たちにとってジュエリーは、夜空の星のように、なじみはあってもどこか少し遠い存在だ。だからといってジュエリーを「ただ見上げるだけのもの」にしておくのは、人生のおいしい果実を一つ、味わい損ねているかもしれない。経験を重ね、肌にも気持ちにもしっとりと落ち着きが出てきた今だからこそ似合う、熟成された美しさ。それが時と人とが交わって輝きを増すラグジュアリージュエリーの豊かな世界だ。
 宝石学の知識を豊富に持ち、各国のジュエリー文化にも詳しい安心堂のバイヤーで鑑定士、川口真さんは語る。
 「ラグジュアリージュエリーには、ファッションジュエリーやアニバーサリージュエリーとは違う価値と楽しみ方があります。ジュエリーの歴史が古いフランスやイタリアでは、単なる装飾品を超えて、その女性の人生のスタンスを表現するツールとして無くてはならない存在なのです」
 店頭や展示会で実際に顧客のアドバイスをする機会の多い川口さんだが、第一印象だけで最もふさわしいジュエリーを選ぶことは困難だと言う。言葉を交わし、何が好きで、どんなスタイルを持っているのかを知り、ようやくその人のための世界で一つの輝きが導き出される。だからこそジュエリーは、身にまとう人間の内面まで語ってくれるのだ。

大人の女性のひそかな楽しみ、宝石の中の青空

 ジュエリーが大人のものだという理由は、宝飾品としての経済的な価値だけではない。
 「ジュエリーの大きな魅力は、センチメンタルバリューという、その人の心が求める価値を持つことです。宝石店で手に取り、選ぶ時間から始まって、購入してからも長い歳月、共に過ごすことで、それぞれの心の中にまた新たな価値が生まれる。それは絵画と人との関係にも似ています」
 川口さんは、ジュエリー選びのプロとして、常にこのセンチメンタルバリューの気付きに導くアドバイスを心掛けている。
 「たとえばブルームーンストーンの美しい青は、空の青と同じなんです。レイリー散乱光といって、光の分子の当たり方が青空を見る時とまったく同じ原理なんですね。ご購入の後、お客さまにそのことをお伝えすると、とても喜んでくださいました」
 宝石の中に自分だけの青空を持つ。それは大人の女性ならではのぜいたくだ。

 身に着けることで気持ちがオンになったり、逆に落ち着いたり。肌に一番、近い場所で輝くジュエリーは、物質でありながら私たちの心とどこかで深くつながっている。
 「生まれた年月日の星の位置から導き出される守護石を、大切な人への贈り物やお守りにする方も多いですよ」(川口さん)
 何気なく立ち寄った展示会や店頭で、ジュエリーとの運命の出合いをする人も。
 「一目ぼれしたジュエリーを前に優しく、『ごめんね、今まで見つけてあげられなくて』と言葉を掛ける方もいらっしゃいます」
 宝石店が一年で一番、華やぐクリスマスシーズン。生涯の友となるジュエリーに出合うために、12月の街へ出掛けてみたくなる。

地球が生み出した素材たちに、私は少し手を加えているだけです

 作家たちの多彩な表現が魅力のコンテンポラリージュエリーは、私たちの日常に小さなドラマを運んでくれる。三島市在住の松浦峰里(みねり)さんも、そんな刺激的な現代ジュエリー作家の一人。今年の9月にはイタリアで開催された国際コンペティション Gioielli in Fermento (ジョイエッリ・イン・フェルメント)2016に入選、日本のジュエリーデザイナーの代表としてその作品がイタリア国内をはじめ、スペイン、アメリカの各都市のギャラリーを巡回した。
 金属を中心に漆や天然石など、自由な素材使いとテクニックを駆使して完成する峰里さんのジュエリーは、身につけると窓を開けたように新鮮な空気が宿る。作家性の高い作品だが、意外なことに峰里さん自身は、自分でゼロから何かを「つくり出している」という意識はないという。
 「金属も石も、ジュエリーの素材はすべて地球が生み出したもの。私の仕事は、素材の声に耳を傾け、そこに手を加えているだけのような気がします」
 峰里さんの自然やいのちに対する謙虚な思いは、2011年の福島での原発事故で改めて揺るぎないものになった。
 「人間にとって科学って何だろう、ものづくりって何だろうと迷い、ジュエリーをつくれなくなってしまった時期もありました。同じ頃、次女が生まれ、とにかく目の前のいのちを守ろう、私は私のできることをしようと、前向きに気持ちを切り替えていったんです」
 
 自分の表現を追求する個展に向けての作品づくりとは別に、一人一人の顧客に向けたオーダーメードジュエリーの制作も、峰里さんの創作活動の大切な柱だ。
 「打ち合わせを何度も重ねて、お客さまの思いを的確に表現していく作業は、その人の"いたこ"になったような感じです。出来上がって、それぞれのお宅に"連れていかれる"時は、まるでお嫁に出すような気持ち。オーダーしてくれた方にはいつも『タンスの肥やしにしないでね』って伝えているんですよ」
 日常の中、いい状態で長く使ってほしいから、簡単なメンテナンスやクリーニングは無料で受けている。
 「お守りになったり、戦闘態勢にしてくれたりと、ジュエリーは小さいけれど持つ人にとって、とても大きな存在。これからもその人の暮らしに寄り添った、小さくて大きいジュエリーをつくり続けたいと思っています」
 自然のパワーを感じさせてくれるものに強くひかれるという峰里さん。ダイヤモンドならネックレスにしたものより、何十億年も前の地球の活動期に生まれた原石が好きだ。
 「娘たちには夕空を見上げる度に『夕焼けがきれい、人間って小さいね』と口ぐせのように言っています」
 実は峰里さん自身は、普段あまりジュエリーを身に着けない。
 「私はジュエリーを"つくる人"ですから。保育園の送り迎えの時はいつもラフな仕事着にスニーカー姿。周りのお母さんたちは私がこういう仕事をしているなんて知らないかもしれませんね」
 そう言って微笑む峰里さんの瞳の奥には、ジュエリーデザイナーとしての静かな自信が輝いている。

人生の節目を彩るジュエリーたち

 静岡市にお住まいのチカコさん(50代)は、人生の折々で輝くジュエリーの思い出を持っている。一番のそれは、結婚して5年、第2子である長男が生まれた後、「これでホッと一息かな」と、何か家族の記念になるものをカタチにしようとオリジナルリングをオーダーした。自分の誕生石のガーネットを中心に夫と二人の子どもの誕生石、ダイヤ、トルコ石、トパーズを小さく散りばめたもの。自由に好きなものを作りたいから、費用は自分で捻出した。家族の絆を表すリボンをモチーフにしたそのリングは、結婚25年目の今も大事にしている。ジュエリーとの深い縁を感じるのが、社会人になりたての20代で購入した18Kのネックレス。何度なくしても、不思議とその度に見つかるのだという。お父さんの1周忌を迎えた今年の秋、出合ったのがロボットをモチーフにしたペンダントトップ。「かわいい!」と目に飛び込んできたそれを、チカコさんは家に連れて帰り、お茶目だったお父さんの名前を付けた。どのジュエリーも、価格に関係なく大切な宝物。それぞれが「がんばったね」とチカコさんの人生を優しく見守っているようだ。

取材・撮影協力 / 安心堂静岡本店 atelier mineri