特集 | 2017.10月号

アステン特集

仕事と暮らし、私のバランス。

仕事と暮らしのバランス―。日々頭の中をループするこの悩みの答えは、どこにあるのだろう。バランスといっても人それぞれだし、きっと正解なんてない。だけど、男の人も女の人も、老いも若きもいろんな暮らし方、働き方があっていい。それを受け入れることがワーク・ライフ・バランスの入り口なのだろう。あちこちで見つけたそれぞれのバランス。

在宅勤務、という選択

 三島市の自宅を拠点に働く大塚真子さん(38)は、静岡県に特化した転職支援を行っている「リンク・アンビション」(静岡市葵区)の社員だ。仕事と子育てのバランスを考え、5年前の採用時から在宅勤務のスタイルを取っている。仕事の内容は求職者へのオファーや求人案件作成、ホームぺージの更新など。週5日、朝から夕方まで自宅のダイニングテーブルでオフィスワークをこなし、月に数回出社している。
 「行ってらっしゃい」。朝7時、ランドセルを背負った蓮君(8)を送り出すと、家事をこなし、8時には仕事モードに切り替える。毎朝9時半からはインターネットのテレビ電話を使って全体会議に参加。それ故、家の中にいるとはいえ、身だしなみを整えることも欠かさない。
 大塚さんにとって、在宅勤務の一番のメリットは時間の有効活用だ。自宅から静岡市内の本社までの通勤時間は往復3時間。それが省かれるので週に15時間は浮く計算になる。その時間を仕事や家事に費やせるのだ。自宅にいることで、子どもの急な発熱にも対応できる。仕事が終わってすぐ宿題をチェックしたり、習い事の送り迎えもできたりする。オフィス勤務であれば心配事になったであろう子どもの様子が目に見えることで、仕事への集中力が高まる。大塚さんのライフスタイルにぴったりはまる働き方だ。
 「時間、場所、家族、仕事...どれも犠牲にしていないんです。気持ちが満足しているので仕事も充実してますね。相乗効果です」と大塚さんは自身の選択に胸を張る。

経営者の意識改革がカギ

 ライフとワークのはざまで悩む女性は多い。特に女性は出産、育児、介護、夫の転勤など、ライフイベントで "ワーク"が左右されることが多く、社会全体の課題になっている。総務省統計局の平成24年就業構造基本調査によると、過去5年間に出産・育児のために前職を離れた人は125万6000人。同じく過去5年間に介護・看護のために仕事を離れた人は48万7000人で、そのうち女性が約8割を占めた。
 ワーク・ライフ・バランスについて詳しい「まゆみ社会保険労務士事務所」(静岡市駿河区)の社会保険労務士、岩崎まゆみさんは「暮らしと仕事のバランスがうまくいくと、モチベーションが上がり、生産性が向上するので売り上げもアップします。離職率も減少します。会社にとってもメリットは大きいですね」と話す。早く終わらせ、早く帰るためには仕事の質とスピードを意識して上げなければならない。また短時間労働の人材も人財として活用できる可能性がある。中身のない残業も少なくなる。
 働き方改革やプレミアムフライデーなど、行政や大企業でのワーク・ライフ・バランスの概念は浸透し始めているが、中小企業の意識改革はまだまだこれから。黎明(れいめい)期と言える。それでも採用氷河期といわれる今、静岡青年会議所が会議のテーマに取り上げるなど県内でも動きはあり、「中小企業経営者の関心は高まってきている」と岩崎さんは期待を寄せる。
 これからの時代、少子高齢化で"働ける世代"がどんどん減っていく。すなわち、いろいろな環境にいる人がほどよく働ける社会へシフトしていく必要がある。「ワーク・ライフ・バランス実現のためには、まず経営者の意識改革が必要。経営理念や経営計画に入れるくらい強い意識で臨んでもらいたいですね」

お互いさま、の意識で受け入れる

 経営理念に女性活躍をうたっている会社がある。藤枝市の不動産会社「アイブロス不動産」は、従業員の9割が女性だ。同社の経営理念は「『女性の働きやすい』を追求し、仕事と家庭を両立しながら女性が輝き続けられる会社を目指します」。パートから社長に抜てきされた三橋陽子社長も子育て中。「お母さんは家族の応援がないと仕事はしづらいですから、お母さんが仕事と暮らしを両立できるよう、生き生きと働ける環境づくりを意識していますね」と話す。明るいオフィスには従業員の好きな音楽が流れ、子育ての話で盛り上がる。それぞれの状況を把握しているので "お互いさま"の意識が自然と根付いているという。
 勤務時間、勤務日数もライフスタイルに合わせられる。物件登録や資料作成など、仕事は属人化せず、部署ごとグループ内で共有するので、急な休みがあっても仕事は止まらない。総務担当の鈴木由佳子さんは、週5日午前10時~午後3時の勤務スタイル。子育てと介護をしながら、仕事を続けてきた。「もし仕事を続けていなかったら、育児と介護で精神的にヘトヘトになっていたと思います。仕事がいい意味で息抜きや生きがいになっています」と笑顔で語った。

男の人だって 同じこと

 育児や介護で家庭を支えなければならない立場にあるのは、女性だけでなく、男性も同じ。男性が多い建設業、運送業などでもワーク・ライフ・バランスへの取り組みが始まっている。
 掛川市の建設会社「若杉組」の増田直生さん(39)は入社17年目の現場監督。建設現場の品質や安全、スケジュールなどの管理を任されている。かつては仕事の比重が大半を占めていたが、双子の子育てを機にバランスを意識するようになった。今は週2~3回、自ら"ノー残業デー"を設けて午後7時には帰宅する。増田さんは小学2年と年長の双子、男の子3人のパパ。妻もフルタイムで仕事をしている。
 「早く帰宅するために、仕事の質を保ちつつ、いかに無駄のない時間の使い方ができるかを考えて行動しています。仕事ばかりだったころと比べると、モチベーションが全然違う」と話す。ノー残業デーは、家族で食卓を囲み、子どもたちと一緒にお風呂に入って寝かしつける。「早く帰った日は、子どもたちが玄関で飛びついてくるのでうれしいですね。お風呂では子どもの本音が聞けることもあるので、大事な時間です」
 このひとときが持てる背景には、社内全体が子育て世代に優しいという土壌がある。パパ同士で子育ての悩みを相談したり、従業員の子どもが会社に立ち寄ったりすることもあるという。
 仕事と暮らしのバランスは十人十色。いろんな働き方や考え方があっていい。けれど、周りの理解があって初めて成り立つもの。それぞれのスタンスを受け入れた先に、ワークとライフの程よいバランスに出合えるのかもしれない。

話そう、ワーク・ライフ・バランス

長時間労働や休暇が取れない生活が常態化してしまうと、心身のリズムが崩れ生産性も落ちてしまう。厚生労働省は全国5地域の自治体と連携して、地域の特性を活かした休暇取得促進のための環境整備事業を行っている。その一環として静岡市、静岡新聞社とともに11月13日(月)に「働き方は変えられる!」をテーマにワーク・ライフ・バランス シンポジウムを開催する。詳しくはasten life ONEページへ。

取材・撮影協力 / アイブロス不動産 まゆみ社会保険労務士事務所 リンク・アンビション 若杉組

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