特集 | 2018.3月号

アステン特集

舞台に立つ私たち

「人生は舞台だ」とシェークスピアは言う。それなら私たちは今、この世界で、どんな役を演じているのだろう。古代ギリシアの時代から、ずっと人の心に寄り添ってきた演劇には私たちがもっと自由に、自分らしく、そして肩の力を抜いて生きるためのヒントがクレオパトラの宝箱のように詰まっている。

「まち」×演劇

 客席に放つ、力強いまなざし。舞台に風が吹くような、しなやかな動き。劇団渡辺の看板女優として活躍する蔭山ひさ枝さんの真ん中には、演劇という揺るぎない柱が、いつもまっすぐに据えられている。
 名古屋市出身。静岡大学の演劇部の仲間3人で、大学卒業後の2004年、劇団渡辺を立ち上げた。
 「実家の親にはバイトをしながら芝居を続けさせてほしいとお願いして。渋々、承知してもらいました」
 劇団は今年で結成15年目。蔭山さん個人も女優として、他の劇団や演劇ユニットでの公演、イベントやストリートパフォーマンスなど、精力的に活動している。
 「人生の半分以上、お芝居に関わっているので、もう演劇をしていない自分は想像できないんですよ」
 目線も呼吸も、頭から爪先まで生身の自分をさらけ出し、成功も失敗もカーテンコールで全部、責任をとる。そんな潔さのある、舞台での芝居が好きだ。
 「私が息を吐くと、お客さんもすーっと息を吐く。右手を上げると、お客さんの顔がふっとそちらを向く。そんな風に、舞台と客席とで空間を共有しているような瞬間が好きなんです」
 秋には、蔭山さんも所属する静岡アート支援機構によって、葵区人宿町に新しい劇場がオープンする。
 「静岡を、日本中の演劇をやっている人たちが立ち寄って、ここで公演をしたいと言ってくれるまちにしたいんです。静岡で暮らす人も、映画を観るような感覚で気軽にお芝居を観てくれて、私たちはワインのソムリエのように"おすすめは何?"と聞かれたら、"今月はここでやっているこのお芝居が良いですよ"と紹介する。新しい劇場にはバーカウンターも造る予定なので、人が集まって楽しく会話できる、演劇のまち、静岡のハブ的な存在になったらいいなと思っています」
 今月末には劇団渡辺版「四川の善人」の再演も控えている。本当は人見知りな性格だが、一人でも多くの人に劇団のことを知ってほしいと、自分から積極的に声をかけるようになった。
 「観に来てくれた人が、劇場からの帰り道、明日もがんばって生きようと思ってくれる。そんな芝居ができたら大成功です」
 静岡を舞台に、蔭山さんの演劇人生は、本日も満員御礼ロングラン中だ。

「わたし」×演劇

 昨年11月、静岡大学で「トランスジェンダーを演劇を通して考える」というワークショップが開かれた。その講師の一人が、静岡市のミュージシャン、会津里花さんだ。
 ワークショップでは、グループごとに前半と後半、それぞれ5分ずつ「家族」のドラマを即興で演技。前半はグループ全員が自分の性とは違う役に扮し、後半はその中の一人が実はトランスジェンダーでカミングアウトするという設定が課せられた。
 「参加者の皆さんには、演技後の講評として、性別に対するアイデンティティーは固定したものでなく、揺らぐものだということ、そして現実には、自分のことをよく知る家族にカミングアウトするのが、一番大変だということを私の体験を交えてお話ししました」
 会津さん自身もMtoF(男性から女性)のトランスジェンダー。男性として結婚し子どもも生まれたが、2000年に離婚。その後、性別適合手術を受けた。
 「もう男でいるのは無理、女として生きようと。でも実は私、中高一貫の男子校出身で、女子たちのリアルな思春期を見ていない。つまり女の子のことを本当は何も分かっていなかったんです。暗闇の中で自分を見失ってしまったような、外にも出られない状態がしばらく続きました」
 そんな会津さんを救ったのが演劇だった。静岡市内の劇団、伽藍博物堂や、らせん劇場と出合い、女優として参加する。
 「劇団の皆さんには申し訳なかったけれど、お芝居をすることで関係性のリハビリをしていたような気がします。この人たちの中で私が女として受け入れられれば、それで大丈夫なのかな、と」
 会津さんは、演劇を通して女性としての新しい関係性を築き、舞台でトランスジェンダーである自分を表現することで自信を取り戻す。
 「活動の軸足が音楽になった今も、演劇人の皆さんとの関わりは続いています。演劇は関係性の芸術。人との関わりを学ぶのは一生のものですから、多分、死ぬまで演劇とはつながっていくのかもしれません」
 会津さんは、アメリカのジェンダー研究者、ミルトン・ダイアモンドの言葉、"自然は多様性を愛する"を、自分流にこんな風につくり変えた。
 「"自然は多様性を愛する。そして社会はこれにならう"、こっちの方がすてきでしょう?」
 彼女にとって演劇は、トンネルの向こう側の新しい自分へと導く、一筋の光だったのかもしれない。

「Life」×演劇

 ドラマセラピーとは、演劇の手法を取り入れた心理療法の一つ。静岡や東京でドラマセラピストとして活躍し、著書『恋愛ドラマセラピーで35歳からの理想の結婚を手に入れる』などが話題を呼んでいる中野左知子さんは、大人の女性にとって、ドラマセラピーは人生をもっと自由に、ハッピーに生きるための道標になると教えてくれる。
 「私たちは皆、人生の主役です。たとえば今年一年を一本の映画にするなら、どんなテーマにしたいですか。今よりもっとハッピーに、運命の人に出会うかも...? こんな風に、人生のシナリオを人任せにしないで、自分自身で描いてみることも、夢や理想に近付くための第一歩です」
 とはいえ、いきなり自分がヒロインとして、舞台の真ん中に立つ自信がない時はどうしたらいいのだろう。
 「そんな時は、食べ物、色、洋服など、自分の好きなもの、好きだと思うことを選び、大切にしてください。一つ一つの"好き"の選択の積み重ねが自信となって、誰のものでもない、自分らしい生き方に導いてくれますよ」
 中野さん自身も、海外で演劇やドラマセラピーを学ぶことで、時に迷いながらも自分の人生を切り拓いてきた。
 「悩みにぶつかったら、演出家のように客観的に自分の感情を観察し、怒りも悲しみも、一度、ありのままに受け入れてみることも必要です。悲劇のヒロインになって自分を甘やかすのではなく、辛かったけどがんばったねと、優しい目線で自分を見つめてあげる。自分で人生の舵を取るためのドラマセラピーは、きっとなりたい自分へと背中を押してくれるはずです」

 演劇に役があるように、私たちにはそれぞれの居場所がある。どう演じる? どう生きる? 人生を見つめ直したい時、演劇の力を借りてみるのも悪くない。

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