特集 | 2017.4月号

アステン特集

幸運な猫に会いに行く

猫もシャクシも猫ブームだけれど、猫たちは今日もマイペースで生きている。そのぷにぷにした肉球で幸せをつかんだリアル招き猫たちに会いに行ってみた。

看板猫と過ごす店

 店の窓ガラスの向こうに、実物大の猫のオブジェが飾られている。その隣にオブジェとそっくりの猫が寝ていて、一瞬目を疑う。店に入ろうとドアを開けた途端、あちこちに寝ていた猫たちが一斉に飛びのいた。レストラン「みよ志」には5匹も看板猫がいるのだ。猫カフェでもないのに。
 来客を一番に出迎える茶白猫ポンタは、5匹の中では次男坊。時には鼻を突き合わせてあいさつもするフレンドリーな性格だ。人前では猫をかぶっているけれど、「僕が他の猫をかわいがっているといたずらして気を引いてくる」と、店主の伊藤善隆さんは笑う。
 ポンタは小さい頃に山道で弱っていたところを助けられ、伊藤さんのところにやってきた。先住猫のミッツは最初こそ戸惑ったけれど、ミャーミャーと頼ってくるポンタの面倒を見るようになった。みんな元は野良猫。3匹目の三毛猫ハナを保護した時「これ以上は飼わないと母に約束させられ」た伊藤さんだったが、その3年後に近所で保護したイチローとジローのもらい手がなかなか決まらず、結局5匹の大家族に。ポンタは店を切り盛りする伊藤さんを助けて、弟妹3匹の親代わりを買って出た。「一家のボスは威厳のあるミッツ、ポンタは母親のような役回りです」
 看板猫がいるといううわさが広まって、猫好きたちが店に集まるようになった。猫と遊ぶというより、ただ同じ空間で時を過ごすというゆるい距離感が、猫好きにはちょうどいい。
 店主の伊藤さんも、猫と人とのそんな関係を見つめるうちに「いつか店とは違う形で猫と人が触れ合える活動ができたら」と考えるようになった。夜中に布団に潜り込んでくる猫たちに囲まれておかしな寝姿になりながら、伊藤さんは今、新しい夢を見る。

離島から来た猫

 鮫嶋みゆきさんが白黒の雌猫レイと出会ったのは、種子島に住んでいた時だった。「夫が当時の勤め先の玄関で、人が通るたびニャーと鳴いてすり寄ってくる子猫を見かねて、連れてきたんです」と、みゆきさんはその日を振り返る。当時小学生だった長女・美緒さんの猫アレルギーが奇跡的に治まった時、みゆきさんは「この子はうちに来るために生まれてきたんだ」と思った。
 種子島はおおらかな土地柄だ。レイは開けっ放しの窓から気ままに出掛け、時々モグラやカエルをくわえて得意気に戻ってくるワイルドライフを満喫していた。近所には彼氏猫だっていた。だから鮫嶋家が藤枝に引っ越すことになった時、レイは知人宅に置いていく方がいいと言う人もいたけれど、みゆきさんたちはとてもそんなことはできなくなっていた。
 島から飛行機の貨物室を乗り継ぐ試練に見事耐えたレイは、藤枝に着くまで鳴き続けて声を枯らしてしまった。初めての「都会暮らし」に慣れない頃、昔のように家を抜け出し、大ケガをしてみゆきさんの布団に入ってきたことも。鮫嶋家はレイのために、新築した家の庭を高いフェンスで囲い、壁に小さな出入口を付けてレイ専用トイレを作った。
 冒険的な半生を送ってきたレイも11歳。家族と一緒に楽しく年を重ね、ツンデレな性格も少し丸くなった。「家族の誰かが落ち込んだり苦しんだりしていると、不思議とその人のそばについているんです」とみゆきさん。この春進学する美緒さんが家を離れた後も、レイはきっとみゆきさんのそばにいる。

3本の足で歩いてきた猫

 「保護されて飼い主さんに迎えられる子は、本当に幸運の塊ですよ」と話すのは「やいづワンニャンの会」の谷澤勉さん。会では、野良猫がこれ以上増えないよう去勢・避妊手術をして元の場所に戻す「TNR」などの活動を通じて、保護された猫、保護しきれなかった猫を数え切れないほど見てきた。
 白いソックスの毛並みがきれいな雄猫ココも幸運をつかんだ一匹だ。どこで生まれたのか、ボランティアの一人がココを見つけた時、生後4カ月ほどのココは交通事故で後ろ足を骨折していた。生きようとして3本の足で必死に人についていく。そのガッツがなかったら、今頃どうなっていただろう。さまざまな協力者や寄付のおかげで、ココはどうにか足の治療をすることができた。
 ワンニャンの会の飼い主募集サイトにココの画像が載った時、「かわいい」と目を留めたのが、Iさんという女性だった。ワンニャンの会では保護した犬や猫を希望者に譲渡する前に必ずトライアル期間を設け、本当にその家になじめそうか見極めている。でも、猫を飼うのは初めてというIさんとココのトライアル生活は、わずか4日で終わった。最初の3日間ベッドの下に隠れていたココが、4日目に突然Iさんの隣に座ったからだ。「触ってもいいですか」とIさんがおそるおそるなでていると、ココはごろんと寝転んでゴロゴロと喉を鳴らし始めた。それでもう大丈夫なのだった。
 もしどこかで、片耳が小さく桜の花の形に切れた野良猫を見つけたら、それはワンニャンの会のようなボランティアの手で去勢・避妊手術を済ませた「さくら猫」の証。どうか地域猫として命を全うするまで、見守ってほしい。

表情豊かな猫アートに会いに行く

「猫は両目が顔の前についていて、擬人化しやすいんだと思いますね」と話すのは、数々の猫アートを扱うショップ「ねこふく」の堤昭さん。店内には人間のように表情豊かな猫オブジェから、伝統の型から作った斬新な色使いの招き猫まで、見ているだけで幸せになれそうな猫グッズが並ぶ。全国約60人もの作家さんそれぞれの猫を見る目が楽しい。

取材・撮影協力 / レストラン「みよ志」 TEL:054-285-6672  「まち・人・くらし・やいづワンニャンの会」関係者の皆さま  招福アート・クラフト雑貨&ギャラリー「ねこふく」 TEL:054-275-2996