特集 | 2018.5月号

アステン特集

AIある明日

人工知能って、アニメでよくある人型ロボットみたいな?つい最近までそんな漠然としたイメージしかなかったのに、いつの間にか世界のあちこちにAIの芽が顔を出していて、この先どうなるのか、なんだか胸がザワザワする。
ねぇAIさん、私たちをしあわせにしてくれますか?

AIはまだ夢の途中

 今さらだけど、そもそもAIって、人工知能って何なのだろう?
 「いま一般に人工知能と呼ばれているものの多くには『機械学習』の技術が使われています」と、静岡大学の狩野芳伸准教授は説明する。機械学習とは要するに、機械にお手本を与えて、その物まねをさせること。最新AIの肝になっている「深層学習」も、膨大な量のデータを学習させることで、より細部を捉えてまねする機械学習の一種。だからお手本や正解のあるような作業はAIの得意技だ。囲碁や将棋もその一つ。
 「昨今のAIブームは画像認識技術の進歩から始まりました。リンゴの画像に対して『これはリンゴ』と答える力は大きく進歩した。ただ、人間の場合、『リンゴ』と答えるか『リンゴの皮』と答えるかの判断には主観が伴います。AIが人の主観をまねすることはまだ難しい。正解がないからです」
 例えば司法試験の自動解答システムを作ろうとする時。一見ルールにのっとって処理できそうな法律の世界も、実は人の主観が裁判の重要な要素になっていて、そこが壁になる。自動化を究める研究がかえって人間の思考を浮き彫りにするのが面白い。「人間の仕事に近づけるには、その仕事の専門家に話を聞かないと実現できません。その意味でAIはプロの優れたノウハウをストックし伝承する役割も期待されています」
 狩野さんは人間の最も知的な活動である言葉に着目したAIを数々手掛けてきた。広告クリエーターのノウハウを取り入れてキャッチコピーを自動生成するAIを開発したり、患者の問診を基に精神病を自動診断するシステムを考えたり。目指すのは、従来の物まねとは違う、より人間に近い言語処理システムの実現。それにはデータを大量処理するだけでなく、人間心理の動きを時系列で理解するモデルが必要だ。今は難しい。でも決して不可能ではない。
 「よく、AIに人間の仕事が奪われるという話を聞きますが、過去にも電話交換手などの仕事はなくなっていった。時代に合わせて人間がスキルを磨かなければいけないのは、いつの時代も同じなんです」

会いに行けるAI

 まだまだ成長途中のAIを、企業はどう活用しようとしているのだろう?
 この2月に静岡の街なかに誕生した交流スポット「ユピテルITパレット」に入ってみると、かわいらしい自然対話型AIロボット「ユピ坊」が迎えてくれる。近づくと首を動かしてこちらを見る。目をぱちくりしながらショールームの説明をしたり、しりとりで遊んでくれたり。小さなボディには、ユピテルが車載用ドライブレコーダーの開発で培ってきた映像解析技術が搭載されている。
 「この技術が将来、家庭の見守りに使えるかもしれません。ユピ坊なら家族も親しみやすいはず」と話すのは、ITパレットを預かるユピテルプラスの服部達也さんと椎野剛さん。「AIは着実に実用に近いレベルになってきています。ユピ坊に限らず、既存の製品にもAIを加えたらもっと良い製品ができるのではと、AIのいろいろな可能性を探っているところです」
 育てているのはAIロボットだけではない。さまざまな企業のAI技術者が集まる場となって静岡にAI技術の輪を広げていくのもITパレットの狙いだ。一方、小学生の子どもたちがユピ坊のプログラムに触れられるロボット教室を開催し、未来のエンジニアを育む活動もしている。「小さい頃の体験が興味の持ち方を変えますから」と服部さん。その子たちが大人になる10年後20年後、静岡はAI技術の集積地になっているかもしれない。

英語を楽しくするAI

 AIを使って小学生の英語学習サポートを始めたのが秀英予備校。仕組みはこうだ。子どもたちの英語の発音をAIが聞き取って、聞こえた通りのことばを文字で画面に表示する。試しに「white」と発音してみると、正しく聞きとれない時は「eight」などと間違った文字を返してくる。発音判定レベルはあえてネイティブに忠実に、少々厳しく設定しているという。やってみると、大人でもなかなか手ごわい。
 今年度から徐々に小3・小4でも英語の授業が始まるなど小学校の英語学習が強化されるのに先駆け、なかなか習得しにくい聞く力・話す力を伸ばそうとAIを導入した。子どもたちもいきなり外国人と話すのは気後れするが、AI相手なら気楽に発音できる。実際に教室で指導している英語教師の村山裕合子さんも「子どもたちも楽しみにしています」と手応えを実感している。また、指導する教師側の判断スキルに関わらず発音の評価基準を統一できるのも利点。先生にとっても心強いサポートツールになるわけだ。
 このAIが出す発音問題、実はネイティブが一つ一つ録音しているわけでなく、問題を自動生成できるのも大きな特徴だ。将来的には、学びたい単語を塾でも自宅でも好きな時に学べるようになっていく。

感性を学習するAI

 もし自分専属のバイヤーみたいに自分だけのセンスや好みを分かってくれるAIがあったら。そんな夢をかなえてくれそうなのが、一人1台の「パーソナルAI」の開発を手がけるSENSYだ。運用しているスマホアプリ「SENSY CLOSET(ベータ版)」は、手持ちの洋服の画像を登録し、それをどう組み合わせて着るか学習させることで、次の着回しコーディネートやおすすめアイテムを提案してくれるというもの。
 「使う人がこの服をなぜ選んだのか、素材が好きだからとか形が好きだからとか、あるいはセール品が好きだとかいった選択基準をいろいろな角度で学習することができます」と話すのはSENSYの是洞麻樹子さん。「将来的にはカレンダーと連携させ、この人と会う時はこんなコーデを提案するといった活用法も考えています」。自分も知らない自分の個性に気付かせてくれる、頼もしい存在になりそうだ。
 SENSYでは他にワインや日本酒の好みを学習する「人工知能ソムリエ」も開発している。「例えばこの洋服が好きな人はこのワイン、といったライフスタイル全般を提案できる技術を目指していきます」と是洞さん。おしゃれとワインの相関関係? どうやら、考えたこともなかった未来が始まっているようだ。

取材協力/静岡大学 ユピテル 秀英予備校 SENSY 撮影協力/d-labo by SURUGA bank

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