特集 | 2018.8月号

アステン特集

海とわたしの方程式

海がいつも家族のように、暮らしに寄り添う人たちがいる。人と海との掛け算で生まれる、十人十色の「正解」を探して。「1(海)」と自分自身でしか割り切ることのできない素数のように潔く、かけがえのない日常がここにある。

ここはハワイに似ています。人も、海も。

 「この辺はハワイに似ているなって、思うんですよ。海があって、山があって。ご近所の人たちがみんな優しいところも」
 静波海岸を見下ろす、牧之原市の高台の住宅地。バナナやニワウルシなど、生い茂る夏の樹木に囲まれた自宅のウッドテラスで、河内美貴さんは気持ちよさそうに風に吹かれる。
 美貴さんの仕事は、ハンドメイドジュエリーの作家。ハワイ語の講師でもある。
 「趣味でフラを踊るときに、歌詞をちゃんと理解したいなと思ったのが勉強のきっかけです。ハワイの言葉は、アイヌ語にも似た、自然と深く結びついたアニミズムの世界。私たちにも理解しやすいんですよ」
 35歳でハワイ大学に留学。卒業後はハワイ島で暮らしながら、公立学校で子どもたちにハワイ語を使って日本の文化を教えた。
 「実際に暮らすことで、自分がなぜハワイにひかれるのか、その理由を少しずつ理解していった感じです。たとえば、ハワイでポンコツの車を買って、調子が悪くて困っていたら、地元の友だちが"車に話しかけた?"って聞くんです。"ちゃんとあいさつしなくちゃダメだよ。車だって知らない人を乗せたくないでしょ"って。すぐに自己紹介して、車にレレという名前を付け、よろしくねと頼んだら、問題なく走るようになりました。不思議だけど、本当のことなんです」
 ちなみにハワイ語のleleとはジャンプすること。「スプリングが壊れて、ぴょんぴょんと跳ねるように走っていたから」と美貴さんは笑う。
 「生活の中でハワイの人たちから教えてもらったことは、今の自分にすごく影響していると思います」
 ジュエリーをつくり始めたのは、2007年に帰国してから。ブランド名のモミパキピカは、太平洋の=Pakipika真珠=Momiという意味だ。
 「日本のアコヤ真珠やインドネシアの南洋パール、タヒチ、フィジーの黒真珠。それぞれの島の真珠たちを、レイのようにつなげていけたらすてきだなと。いつまでも真珠が育つ、きれいな海でありますようにというメッセージを込めました」
 海や風、花や樹木。毎日が自然と共にあるハワイの人たちのアロハスピリットは、日本で暮らす美貴さんの心の深い場所で、今も真珠貝のように輝いている。

テレビ局からこんにゃく店の4代目に。生まれ育った焼津をもっと元気にしたい。

 「焼津の港の風景や匂いが大好きなんです。練り物や鰹節の工場があったり、魚をさばいていたり。よそから来る人は魚の匂いが気になるかもしれませんが、私にとってはとても落ち着く、安らぎの場所なんです」
 焼津生まれの岩崎真紗美さんは、昭和2年創業の岩崎蒟蒻店(焼津市小川新町)の4代目。といっても、この世界に飛び込んだのは1年前。それまでは地元のテレビ局で番組制作の仕事をしていた。
 「3代目として働く母の背中を見て育ちましたが、後を継ごうという気持ちはありませんでした」
 転身のきっかけは、自身が手がけた情報番組。地元商店街での突撃インタビューという形で、こんにゃくづくりへのこだわりを熱く語る母、悦子さんの姿を見て、「かっこいいな。うちのこんにゃくってすごいんだな」と、素直に尊敬の念を抱いた。
 「女性のこんにゃく職人として母が受け継ぎ、守ってきたバタ練りという伝統的な製法。地域で親しまれてきた店の歴史。それらを私の代でなくしてしまっていいのかな、と」
 最初は大反対だったというお母さんも、積極的に食のイベントに参加したり、SNSを通じて岩崎蒟蒻店の新しい魅力を発信、こんにゃくの普及に尽力する4代目の仕事ぶりを、徐々に認めてくれているそう。
 「焼津は海と共に生きる町。鰹節や佃煮、練り物など伝統あるお店も少なくありません。こんにゃくは海のものではないけれど、おでんやだしの文化とリンクさせて、同世代の後継者さんたちと一緒に、港周辺を新しい食育のまちとしてリノベーションしていきたいという思いを強く持っています。実はマスコミの世界に入ったのも、情報発信を通じて地域を活性化したかったから。今ちょっと元気をなくしているように感じる焼津を、食からもっと盛り上げていきたいです」
 重いこんにゃくに負けない筋力づくりにと、海辺でのウオーキングも始めた。大好きな港で、真紗美さんの夢も、前へ前へと歩み続けている。

一人になりたい時は海へ。「また来たな」と優しく受け止めてくれる。

 「星を見るのも、ぼうっとするのも、とにかく海。やっぱりここが一番。最高のロケーションです」
 こことは、静岡市駿河区の用宗海岸。この土地で生まれ育った仁科有弓美さんは、SUP(サップ)とヨガのインストラクター。6月にオープンしたばかりのクラブサリーズ・スポーツ&カフェの店長も務める。
 有弓美さんの朝は早い。夏場は4時に起床。6時過ぎまで、カフェに併設されたスタジオでヨガを。その後、すぐ自宅に戻って家族の朝食を作り、5歳と2歳の娘たちを保育園に送り出す。そこから、カフェの開店準備や教室でのヨガのレッスンなど、有弓美さんのオンタイムが動き出す。忙しい毎日だが、その表情は穏やかだ。
 「イライラする時もありますよ。そんな時は海に出るんです。ザッバーっていう、用宗独特の波の音を聞いて、風を身体で感じて。そのうちに自然と気持ちが落ち着いてきます。波と一緒に嫌なことを流してくる感じかな。海はいつも"また来たな"と、大きく受け止めてくれるような気がします」
 幼い頃から、もう一人の家族のように海が身近にあったが、大学時代、ライフセーバーをしたときに、好きだったはずの海が一時、嫌いになってしまった。
 「疲れてしまったんでしょうね」。海を守るという使命の重さと、時に人の命まで奪う海の持つ負の部分が、有弓美さんの心を遠ざけたのかもしれない。しかし、それを癒やしてくれたのも海だった。
 「海に入ることを避けていた時期にSUPに出合ったんです。SUPって、海の上で何をしてもいいし、何もしなくてもいい。潮風に吹かれながら"気持ちいいな。なんだ、やっぱり海って楽しいじゃん"って。また海が大好きになりました」
 SUPは、海上で安定感のある大きなボードに乗ることで体幹を鍛えるハワイ発祥のスポーツ。有弓美さんは、海に出てボードの上でヨガを楽しむ。
 朝起きて、家族や友人に支えられながら海の側で好きな仕事をして、一日を終え、娘たちの寝顔を見て眠りにつく。「それが今、一番のハッピー。ずっとこんな生活が続いていけばいいなと思っています」。有弓美さんが導いた答えは、寄せては返す波音のようにシンプルで心地よい。

それぞれの海の向こうにある、それぞれの幸せ。人生の正解は一つじゃない。この夏、私たちも、海とのコラボで自分だけの答えを見つけたい。

取材・撮影協力 / Momi Pakipika 岩崎蒟蒻店 クラブサリーズ Sports&Cafe

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