特集 | 2017.2月号

アステン特集

チョコレートの魔力

口に入れた途端、夢のように溶けてしまうチョコレートだから、その一瞬がとても貴重になる一粒の魔法、アステンがかけて差し上げます。どうぞゆっくり味わって。

神秘の食べ物

 もしも地球に宇宙人がやってきて、友好の印に何か食べ物を贈るとしたら、チョコレートではないだろうか? 中南米で生まれアフリカで育ち、ヨーロッパで花開き、アジアの私たちも日常口にするチョコレートは、いわばスイーツの地球代表だ。
 「原料のカカオに抗酸化物質が豊富なことから、最近特にその効能が注目されていますが、そもそもは紀元前の時代から、カカオには特別な力があると信じられていたようです」と話すのは、食生活に詳しい東海大学短期大学部の末永美雪教授だ。カカオの原産地は中南米の熱帯雨林。アメリカ大陸最古の文明、オルメカ文明で既にカカオが栽培されていたという。「以来、カカオは薬のように扱われ、神に捧げたり貨幣として使われたり、媚薬(びやく)や強壮剤のように利用されたりしていました。もっとも最初はカカオの種をすりつぶして飲むような単純なもの。渋くてとても飲みにくかったでしょうね」
 その後カカオはヨーロッパに渡り、製法も進化して限られた貴族だけに珍重されていたのだが、産業革命の時代に砂糖やミルクを加えて味を調え、安く大量生産したものが出回るようになる。それが長時間労働の手軽なエネルギー源として広まっていった。「そういう流れでできたチョコレートだから、過剰栄養の時代になると高カロリー過ぎて健康に良くないといわれるようになったんです」と末永さん。「近年ようやくチョコレート本来の食品としての価値が科学的に裏付けられて、その機能を引き出す商品が出回るようになりましたが、それでも栄養的には一日にほんのひとかけらが適量と言われています。チョコレートの機能性だけに注目するのではなく、自分へのご褒美や心を休めるお菓子として、楽しんで味わうのがチョコレートの魅力だと思いますから」
 ダイエットが気になるなら、体が脂肪をためにくい午後3時から4時頃に食べるのがベターと言われているので、参考に。

工房の魔法

 チョコレートはもともと農産物。それが実感できるのが静岡市内のチョコレート専門店「コンチェ」だ。店内の小さな工房で、世界各地から輸入したよりすぐりのカカオ豆がオーブンでローストされ、細かく砕いてとろりと滑らかに練り上げられた褐色の液体が板チョコに姿を変えていく。作り方そのものは意外とシンプルなのだ。
 「チョコレートがカカオという農産物からできていて、自分の手で作れるものなんだと気付いたのが、興味を持ったきっかけでした」と、オーナーの田中克典さんは話す。もともと体に良い食べ物への関心が高い田中さんだが、それまでチョコレートに意識を向けたことはなかった。「調べてみると、よく市販品に入っている乳化剤や香料って、なくてもチョコレートはできるんです。それならなぜ使うんだろうという疑問から、自分で無添加のものを作ってみようと思い立ちました」
 楽に味を仕上げる添加物を使わない代わりに、田中さんはカカオ本来の風味を生かす工夫を凝らしている。「焙煎はできる限り浅くして豆の産地ごとの特徴を生かし、本来のフルーティーな香りを引き出しています。そうすると焦げから来る苦味も抑えられるんです」。使う砂糖は天然のミネラルを含んだキビ砂糖、ミルクチョコレートに加えるミルクも全粉乳。畑とつながった食べ物という信頼感からだろう、子育て中で食の安全安心への意識が高い女性たちもよくお店に来るのだとか。
 豆の産地ごとに違う風味を食べ比べるのも楽しい。「カカオの原産国は多くが発展途上国で、現地の人は自分たちで食べるためでなく売るためにカカオを栽培しているんです。味ではなく重さで価格が決まるので、収穫しやすい丈夫な品種を育てようとする。だから味が良くても育てにくい品種は淘汰(とうた)されてしまいます。それで最近は種の保存に取り組む活動も出てきました。より質の良いカカオを使ったチョコレートを作ることが途上国の発展にもつながればいいなと思います」

一粒の夢

 「チョコレートを食べると気分が上がるとか頭がさえるというのは、糖分が補給されるというだけでなく、香りが良いからでもありますよ」とコンチェの田中さんは言う。口溶けを楽しみながらゆっくり味わうと、香りの余韻が残る気がする。「チョコがフルーティーならワインと合わせるとか、飲み物と合わせて選ぶのもいいですよ」
 そう、チョコレートは他の食材との「マリアージュ」やアレンジが楽しめるのも魅力。東海大の末永さんのおすすめはチーズとの取り合わせだ。ブルーチーズと合わせたり、フルーツピザのソースにしたり。さらに「レンジでちょっと溶かせば簡単にアレンジできるのもチョコの良さ。例えば、刻んだレーズンやナッツを混ぜ込んだチョコソースで、カリカリにいった田作りをコーティングすると、小魚が苦手な子どもも喜ぶ栄養豊富なおやつになります。他の食材をおいしくしてくれるサブ材料としても魅力的ですよね」
 日本に世界のチョコレート専門店が続々登場しているのも、それだけチョコレートが多彩な世界を持っているからだろう。「一年を通じてその時だけの限定フレーバーを楽しめるのが、90年続いた人気の秘密だと思います」と話すのは、老舗の「ゴディバ」静岡パルコ店の白澤由貴店長。もともとはヘーゼルナッツを使ったプラリネと呼ばれるチョコレートで定評のあるゴディバも、季節イベントなどをテーマにさまざまな趣向を凝らし、年10回ほども限定品が登場するのだとか。特に昨年は90周年を機に、創業間もない1946年から2016年までの歴代のトリュフが一箱に収まった伝説のコレクションが登場。昔のシンプルでピュアな味わいが、時代の移り変わりとともにどんどん華やかで豊かになっていくのを楽しみながら味わえる。それぞれのチョコレートに込められた物語を感じながら、ゆっくりとろける夢の時間を楽しみたい。

自分を上げるチョコ、誰かにあげるチョコ

 街にチョコがあふれるバレンタインデーの季節は、プレミアムな一粒を自分のために買うにもいい時期。ゴディバ静岡パルコ店の白澤さんによれば、「自分用には後で使えるかわいいパッケージのチョコレートが人気」とか。ゴディバの限定パッケージにはその年の年号が刻印されているものもあり、男女問わずコレクション心をくすぐる。もちろん中身もバレンタインデーならではの特別仕様。「今年はケーキビュッフェのようなわくわく感を楽しんでいただけると思います」。今年のバレンタインデーは平日とあって、手頃な義理チョコサイズも多数。ちょっとずついろいろ、試してみては。

取材・撮影協力 / 東海大学短期大学部 Conche ゴディバ静岡パルコ店