特集 | 2019.4月号

アステン特集

わたしの平成

時代が変わるという。ニュースで見聞きするその節目に振り返るのは、私たちの上を等しく通り過ぎてきた時間。三人三様の平成。

静岡→世界

 静岡市の今井奈保子さんの平成は一枚のポスターから始まった。出張先の列車で偶然目にした「青年海外協力隊」。有給休暇を取り、平成5年から協力隊に参加。スリランカに赴いたのを皮切りに、21年に帰国するまで、平成の多くの時間、海外と日本を行き来した。
 スリランカはカーストが根強く残り、内戦もあった地域。協力隊後、仕事でスリランカ勤務になった今井さんも、宿泊先のホテルが爆破されるなど危険な目にあった。それでも行き来をやめなかったのは「なぜだろう」という気持ちが消化できなかったから、と今井さんは話す。
 「ドロップアウトした少年たちに電柱を立てる仕事を手配したら、国の政策が変わって続けられなくなったり、女性たちのパッチワークを商品化したら買いたたかれたり。普通に暮らしている小市民が、努力ではどうにもならないことで負の部分に巻き込まれる。日本では想像もつかないことが目の前で起きて、何でこんなことになるんだろうと、疑問ばかりでした」
 フェアトレードを知ったのもそんな時だ。その仕組みを大学で学び、帰国後に開いたフェアトレードショップ「Teebom」で抱え続けた思いが形になった。オリジナル商品を企画するのも「いずれは、イマイからの注文で1年食べていけると言ってもらえるように」。
 「あなたの人生はリスクが多すぎると言われたことがあって。でも、私はリスクではなくチャレンジだと思ってるんです」
 スリランカでパッチワークを指導した女性から最近「今も頑張っている」と連絡をもらった。いつかまいた種が小さな芽を出し、かの地に根付き始めている。

ポケベル→スマホ

 「最初は中学時代のポケベル。高校でPHSになって携帯、スマホと全部経験してきたのが、私にとっての平成ですね」。そう話してくれたのは静岡市の重森千夏さんだ。コミュニケーションの手段が劇的に変化した平成。友だちとずっとしゃべっていたい、笑い合っていたい年頃を、それらのツールが支えた。
 「今なら電話できるよってポケベル鳴らすんです。親より先に受話器を取るために電話の前でスタンバイして」
 受信オンリーのポケベルから、カタカナだけでもメッセージを送信できるPHSに変わったのは画期的だった。
 「どうやったら限られた文字数で伝えられるか、一生懸命考えましたね。みんなで新静岡センターに集まって、そこで会った人とアドレス交換したりプリクラを撮ったり」
 ギャル、コギャルなんて呼ばれて、その元気っぷりが注目を集めていたけれど、静岡の女の子たちは怖いものなしで突き進むというよりは、できることを探して工夫して、悩んだりドキドキしたりして過ごしていた。
 「鈍行で原宿に行くのが一大イベントだったし、通話料が2万円超えちゃって、どうしようって青ざめたこともありました。遠距離恋愛中は、とにかく携帯代のためにバイトを頑張って。当時の友だちとは今も付き合いが続いています」
 インターネットが当たり前になった今、時代のツールを使いこなしてきた重森さんでさえ、3人の子育てをする中で「こんなに便利でいいのか」と感じるという。
 「今までいろいろ使ってきたからこそ、子どもたちには、ネットだけで知った気にならないで、実際に行って、見てみることを大切にしてほしいし、ちゃんと人に会うことを経験してほしいと思う」

江戸→平成

 ごく普通のサラリーマン家庭で育った村松由夏子さんが、藤枝市の老舗の八百屋「本陣」に嫁いだのは平成4年。「昔ながらの八百屋なんだ、青果市場もあるんだ、としか分かってなかったんです」
 子育ての合間に、夫や夫の両親、親戚が営む八百屋を手伝う中で、八百屋は80年だけれど、それより前の江戸時代、東海道五十三次の宿場から続く家だと知って「実は責任重大なのでは」と気付いた。「ずっと男性が跡取りだったから、娘2人の私たちはどうしようかと。でも今の時代、息子がいても継ぐとは限らないし、なんとかなるよと夫と話していたんです」
 転機が訪れたのは24年。夫の父が突然他界し、青果市場を夫が、八百屋を由夏子さんが切り盛りすることになった。一番大変だったことは仕入れ。せり人にはなかなか伝わらないし、独特のスピードにもついていけない。商品がそろわない店で「本陣やめちゃうの?」と言われ、その重みにがくぜんとした、と村松さんは振り返る。
 「13代も続く家を自分が絶やしたらどうしよう、とにかくやらなきゃ、と」
 幸い、周りは「私たちも一緒に頑張るよ」と協力的だった。目の前のことをただ必死でこなし、1年ほど経ったある日、接客中に声をかけられた。
 「お客さまが『あんたよく頑張ってるねえ』と。ぬか漬けを漬けながら、泣きながら過ごした日々を、ちゃんと見てくださっていたと思うと涙が止まりませんでした」
 今、地元の旬の野菜や果物を中心に、店頭で会話しながら魅力や食べ方を伝え、SNSで発信する村松さんは、平成のさらに次の時代を見据えている。
 「娘の夫が店に入ってくれたんです。だから私は次の世代もこの店が続くように整えていきたい」

取材・撮影協力 / Teebom 八百屋本陣

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