特集 | 2018.2月号

アステン特集

私と車で、行ける旅

生活の足を、ほんの少し延ばすだけで、それはもう「旅」になる。そしてその道のりは、楽しい方がいい。ハンドルを握って、明日もどこかへ。

目的地は「道の駅」。

 「まるで羽が付いているみたい」とはフットワークの軽さを表す言葉だけれど、愛車であちこち出かけていき、その行程も楽しんでいる人の姿は、まさに背中に羽があるように軽やかに映る。
 影山麻夕美さん(静岡市)もその一人だ。影山さんにとって、子どもの頃、休みのたびに家族でドライブを楽しんでいたことが、車で出掛けていた原風景だという。
 「例えば『海を見たいね』となったら、おにぎりを買って、父の運転で港に行き、釣りをしている人を見ながら家族でお昼を食べる、というような。車でどこかへ行くのは、ごく日常の出来事でした」
 大人になってからも、旅にはたいてい車で。目的地を決めることもあれば、春には桜を、秋には紅葉を見に、と大まかに決めて出発したり、テレビの企画を真似て、ナビにランダムに電話番号を入力し、どこへ行くか分からない冒険にチャレンジしたことも。途中の道の駅で、その地元の特産品に出合うのも楽しみの一つなので、クーラーボックスは必需品だ。
 そんな影山さんが見せてくれたのが、道の駅の「記念きっぷ」。10年ほど前に知って以来、発行している道の駅を訪れた際には買い求め、その日の刻印を入れる。
 「道の駅ごとに個性があるんです。新潟の燕三条は、ものづくりの街らしく金属製の切符があったり、裏に地元ごとの観光名所やおいしいものが紹介されたりしているのも面白い。だんだん集めるのが楽しくなってきて、今では旅行の際には、目的の道の駅に切符があるかどうか調べます」
 昨夏は沖縄でレンタカーを借りて、沖縄本島に8カ所ある道の駅を回った。もちろん切符も新たに加わった。総走行距離約450kmの道のりは、美しい海の風景に車を止めたり、「ヤギあります」の看板に驚いたり。「何より、自分のペースで気持ちよく回れて。それが車の旅の一番の魅力ですね」と影山さん。
 少しずつ増えている切符のコレクションは、そのまま思い出を振り返る手掛かりにもなる。「結婚する前から集めていたので、夫婦で一緒に行った場所や記憶も、この切符を見ればよみがえります。ここではこれを食べたね、この日は大雨だったね、と。日記のような感じかな」

長く、永く乗るために。

 快適なドライブに欠かせないのが、何よりも安全だけれど、メカに明るくなくても、どこに気を配るべきかを知っておくだけで、車との距離は近くなる。
 「一番身近に見ていただけるのが、タイヤの空気圧ですね」と、HondaCars静岡清水渋川店のサービススタッフ佐塚泰孝さんに教えてもらった。車は車種ごとに空気圧の基準があって、どんな道をどのくらいのスピードで走るのかによって、微調整はしたほうがいいという。
 「長距離運転する場合は、高速道路のようなスピードを出すようなドライブのことが多いですが、その際には、空気圧を少し高めにします。ディーラーで頼んでもいいし、出発前に給油する際、ガソリンスタンドなどでも言えば見てもらえますよ」
 車に負担のないような安全運転を心掛けるのを大前提として、普段からの定期的な点検を欠かさないだけで、普段乗っている時には気付けない不調もチェックできる、と佐塚さん。1年ごとの法定点検は義務付けられているが、これは人間の健康診断と同じようなもの。
 「総点検によって不調を未然に防ぐことができます。予防整備をきちんとしていると、いざ遠出するときも、安心して乗っていただけます。もちろん、決められた点検以外にも、いつもと違う音がする、エンジン音が大きい、など気になったことがあれば、それがささいなことであっても気軽に相談してほしいですね」
 詳しくないからこそ、心配なところはプロの目で見てほしい、と足を運ぶ女性も多いのだとか。そんな日常の細やかな気配りは、最終的には車との長い付き合いにも結び付く。

人生を、ともに走る。

 静岡市の赤池京子さんは、夫の勇治さんと結婚する際、お互い乗っていた車を手放して、1台を一家の車に選んだ。「何年経っても飽きの来ない、長く乗りたいデザインが気に入って」二人で相談して決めたのは、光岡自動車の「ビュート」。2001年の購入から、すでに17年以上経ち、あちこち古くなっているけれど、普段の買い物や仕事には欠かせない足として、今もハンドルを握る。
 その思いが強くなったのには、きっかけがある。夫の勇治さんの海外転勤が決まり、車からいったん離れることになったのだ。
 「車をどうするかは、帰国してから決めようと、取りあえず家族に預けてイギリスに渡りました」(京子さん)
 ロンドンでの生活の中で目にしたのは、イギリス人の、古い物を愛おしむ価値観だった。
 「日本では、30~40年乗っている車でさえ、かなり古いと言われるけれど、イギリスではまだ『モダン』の域。100年ぐらい経ってやっとクラシックカーと呼ばれるんです」と勇治さんは話す。
 現地で毎年開催されているクラシックカーのレースには、それぞれのオーナーが誇らしげに参加し、それは愛おしそうに車を扱う。エンジンがかからなくても、スピードが出なくても、車そのものに深い愛着を持って手入れをする。その姿勢に心を打たれたと京子さんは言う。
 帰国するまで3年間一度も動かされなかった愛車は、塗装が剥げてボロボロになっていたが、もう一度塗装し直し、乗り続けようと二人で決めた。
 「各地の温泉に出掛ける楽しさや、父が亡くなった時に夫が乗せて行ってくれた悲しい記憶、いろんなシーンで、この車に助けてもらっています。私たちと一緒に、車も年を重ねていってほしい」
 今も、調子が悪いところがあるし、たびたび修理に出すことも。それでも、壊れるまで乗り続けるつもりだ。
 「人類学者のライアル・ワトソンが、物には思いが宿ると著書で述べていますが、私もエンジンをかけるときは必ず『事故のないように一緒に頑張っていこう』と心の中で語りかけています。大切に乗りたい気持ちは、きっと車にも通じていると思うのです」

愛車の声に耳を傾けて、明日も快適なドライブを。

取材・撮影協力 / Honda Cars静岡清水渋川店

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