特集 | 2020.5月号

アステン特集

日本平で待つ僕ら

生きていれば、いろいろある。今いる場所に少し疲れたら、動物園はどうだろう。いつだって、僕らはキミを待っている。同じ地球を分け合って、僕らもここで生きている。

大人が休日を楽しむ動物園へ

 動物園は子どもや家族連れが行くところ。そんなイメージは過去のものだ。もちろん子どもたちが楽しんだり、学んだりするにはぴったりの場所だが、最近は「休日はお気に入りの動物に会いに行く」という大人の動物園ファンが増えている。
 JR東静岡駅からバスで約10分。日本平の麓にある静岡市立日本平動物園も、大人が楽しめる動物園だ。
 「当園は、静岡に動物園をつくってほしいという市民の皆さんの願いから、多くの寄付が寄せられ、誕生した動物園です。昨年の50周年記念イベントにも、たくさんの方にご来場いただきました」と、広報の望月美秀さん。
 「聖地」として話題のレッサーパンダ以外にも、珍しい小型サルやヒゲワシなど、日本平でしか見られない隠れた人気者も。リニューアルにより、野生動物の自然な姿を間近に感じることのできる「行動展示」へと、見せ方も大きく進化。ホッキョクグマやライオンとガラス越しにハイタッチもできる臨場感たっぷりの動物園として、全国から日本平へと足を運ぶファンも多い。

レッサーパンダが「聖地」から、人に教えてくれるもの

 「レッサーパンダの飼育担当をすると、動物の相手だけでなく、お客さんとお話する機会が増えるんですよ」と飼育員の横山卓志さん。人懐こいホーマー、少し臆病なホーリー、クールなまるおと表情豊かなまるこの双子の兄妹など、その愛らしい姿を見守るファンが、日本中から会いに来る。実は野生のレッサーパンダは、国際自然保護連合が定める絶滅危惧種。日本平動物園は、その希少なレッサーパンダの繁殖計画の日本における司令塔として大切な役割を担っている。
 「今はホーマーが、去年生まれたれいかちゃんの子育て真っ最中です。レッサーパンダは妊娠、出産、子育ての全てをメスが行います。よく肝っ玉母ちゃんっていうんですけど、本当に立派な母親が多いです。現在、子育てをがんばっている人には、共感する部分があるんじゃないでしょうか」と横山さん。自らの仕事を「ぼーっとしてる子、神経質な子など、個性豊かな9頭をまとめるレッサーパンダ学級の先生のようなイメージ」と説明する。でも、この「先生」、生徒の食事のために毎日、近くの山から1日分、およそ14キロの竹を切り、担いでくるのも大事な仕事。「レッサーパンダは小さくてかわいいですが、歴代の担当飼育員はムキムキのおっちゃんが多いんですよ」と笑う。
 「来園者にはそれぞれの人生があり、悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。動物園には地球に暮らす大先輩がたくさんいます。この動物、好きだなとか、自分に似てるなと、楽しんでくれるだけでもいいんです。動物園には皆さんの人生を豊かにしてくれるヒントが転がっています。それを伝えるお手伝いができたらうれしいですね」

黒いジャガーの成長に明日を重ねる

 日本平動物園の猛獣館299(にっきゅっきゅー)は、肉球を持つ猛獣の息遣いやしなやかな筋肉など、ダイナミックな存在感に触れることができる人気の施設。1歳のメスの黒ジャガー、小梅は昨年、南アフリカからここにやって来た。
 「初めて会ったのはまだ生後5カ月の頃。最初は警戒して、シャーシャーと威嚇されました。毎日、顔を見せ、寄ってきたらにおいを嗅がせて、少しずつコミュニケーションをとっていきました」と、担当飼育員の大谷舞さん。
 離乳は完了していたが、野生ならまだ母親と一緒に生活し、ジャガーとしての動きを教えてもらう時期。大谷さんは、遊び道具がないと寂しいだろうと、ポリタンクやボール、水道管、枯れ葉から夏場は氷まで、小梅のためにいろいろと工夫し、用意した。
 「なんでも楽しそうに遊んでくれました。小梅は今でも遊ぶのが大好きです。ガラス越しにお客さんと追いかけっこをしたり。好奇心旺盛で、人が好き。擬岩に隠れて突然、お客さんの頭の上のフェンスに飛び降りて驚かせ、その反応を見て楽しんでいるところもあります。いたずらっ子ですね」
 とはいえジャガーは猛獣、子猫のように遊んでいたかと思えば、怒った時はライオンのようにガオーと低く、迫力のある声が出る。
 「かっこよくて、かわいい。そんなジャガーの魅力を観察してください。珍しい黒品種ですが、日があたっている時によく見ると、しっかりジャガーの模様が出ているんですよ」
 小梅は先住のオス、小助のお嫁さん候補でもある。少しずつ柵越しにお見合いを始めているが、同居するのはまだ先のこと。「私がいれば安心してくれる。そんな関係になりたい」と、母親にも似たまなざしを送る大谷さんの前で、いつの日か小梅自身が母となって子育てをする。そんな未来を想像するのも、動物園に通う楽しさだ。

カピバラたちと、人間と

 ジャガーの小梅と同様に昨年、「50周年記念来園動物」として仲間入りしたのが、なめこ、ぶな、ちゃんこ、さくらの、全員男子のカピバラボーイズだ。冬の時期は、温泉(お湯入りのプール)に気持ちよさそうに入っている姿がSNSを賑わせた。
 「カピバラは水辺に生息する動物なので、水につかっている方が肌の状態がいいんですよ。水の中にフンが浮かんでいることがありますが、野生のカピバラは捕食の対象にならないようにおいを消すために水の中で排せつするといわれています。カピバラにとってプールはお風呂でもあり、トイレでもあるんです」と、飼育員の藤森圭太郎リカルドさん。時には水しぶきを上げてワイルドに遊び、大人になったら交尾も水の中で行うとか。
 私たちには見分けがつきにくい4匹のボーイズだが、親分肌のなめこ、平和主義者のぶな、マイペースなちゃんこ、人懐こいさくらと、藤森さんの目は四つの個性をしっかり捉えている。
 「動物の気持ちが分かるんでしょ、とよく言われるんですけど、それは人間の頭で考えることで、僕は100%動物の気持ちを理解するのは無理だと思うんです。動物は動物で彼らの生活をして、飼育員は世話をしつつ、少し離れた視点でそれを見守る。人と動物が関わり過ぎないのが、僕の理想とする彼らとの関係です。たとえ動物園でも、野生にいたらこんな姿で、こんなことをしているのかなと想像できるような場所であってほしい。そんな気持ちは飼育員になる前からずっと持っていました」
 動物園に来ると優しい気持ちになれるのは、動物を愛する人たちと動物の、命と命の強くて温かい信頼関係が、自然と伝わってくるからかもしれない。

※静岡市立日本平動物園は新型コロナウイルス感染拡大防止のため5/6まで臨時休園中(7日は休園日)。最新の開園情報は HP https://www.nhdzoo.jp/ でご確認ください。
※各担当飼育員は取材当時(2020年3月)のものです。

取材・撮影協力 / 静岡市立日本平動物園 Tel.054-262-3251

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