特集 | 2019.8月号

アステン特集

今、大学生になる

学びは人生を豊かにする。教科書を開くと、新しい世界が広がる。厳しい試練を乗り越え、卒業証書を手にした先には、まばゆいほどに輝く私がいる。社会を見た今こそ「大学生」に。

意欲が高い社会人学生

 もう一度、大学で勉強できたらな。そんなことを考えたことはあるだろうか。人生100年時代に向かう中、「リカレント教育(学び直し)」は時代の一つのキーワードでもあり、需要は高まっている。チャンスは思いのほか、手の届くところにある。小論文と面接だけの入試や低めの学費設定、夜間授業やインターネット授業など、社会人の学びをサポートする環境は進んでいる。
 静岡大学には、社会人が学びやすい「夜間主コース」(人文社会科学部法学科・経済学科)がある。授業は平日夜間と土曜の午後が主で、昼間の授業も履修できる。授業料は昼間の半額だが、卒業資格は昼間と同じ「学士」。追加料なしで在学期間を最長8年間まで延長できる「長期履修学生制度」もある。育児中であれば学内の託児所に子どもを預けることもできる。「大学は間口を広げて柔軟に社会人を受け入れています。あれこれ考えて身構えるより、とにかく一歩踏み出してほしい」と呼び掛けるのは夜間主コースでも授業を受け持つ同大学人文社会科学部法学科の国京則幸教授だ。
 入学してくる社会人は、主婦や会社員、経営者、教員など、肩書も年齢もさまざまだが、共通するのは意欲の高さだという。中にはわが子の大学入学と同じタイミングで入学する母親や、育児や介護をしながら卒業を目指す人もいる。目標は必ずしもキャリアアップのためではない。
 「ただ純粋に『学びたい』と思ったから大学に入る。それでもいいんです。具体的な目標がなくても、学びの中で必ず気付きはあります。これまでとは違う世界を知り、何かをつかむ人は多いですよ」

3人の子育てと両立

 国京教授のゼミで学んだ島田市在住の園部真由美さんは、3歳、10歳、12歳の子育てママでもある。末っ子は在学中に出産した。今年3月に学部を卒業し、大学院へ進んだ。
 大学を志したきっかけは、夫の赴任先のメキシコから帰国して目の当たりにした日本の光景だった。「私は"成田ショック"って呼んでるんですけど、成田空港の日本人の列だけ年齢層が高くどんよりしてたんです」。テレビを見ても街を見ても、閉塞感が漂っていた。いてもたってもいられなくなり、さまざまな地域活動に関わった。そんな中、大学教授と話す機会があり「大学で学びたい」と受験を決意した。
 2015年、大学3年生として編入した。人生2度目の大学生活は、家庭との両立が課題だった。子育てがあるので昼間に学校へ。学費は貯金から捻出した。朝と夜中に宿題し、家事や家計、時間のやりくりは家族みんなで協力し合った。在学中に3人目を妊娠。それでも休学はせず、産後は学内の託児所も利用した。入学から4年後、念願の卒業証書を手にした時、家族の絆はさらに深まっていた。
 何か具体的な職業を目指して入学したわけではなかった。現状に対する問題意識を解決したいと思った先に、たまたま学びがあったという。「社会経験を積んでから受ける大学の授業は、納得の連続でした。"目からうろこ"なことばかりで、いつも前の席でうなずいていました」と振り返る。キャンパスライフも5年目。世の中の構造を理解し、俯瞰(ふかん)できるようにもなった。そして「いつか人に教える立場になりたい」という目標も芽生えた。

60歳から始まった挑戦

 焼津市の川村裕子さんは、60を過ぎてから「学び」の世界に魅了された。現在、法政大学経済学部の2年生だ。「大学の勉強って本当に難しいですね。でもね、分かるとうれしいんです。数学1問解くだけで、『できた』っていう喜びがあるんです。当然苦しいこともありますけどね」と笑う。
 長年宝飾店で役員を務め、仕事一筋だった川村さん。学びと真正面から向き合ったきっかけは、60歳で初めて体験した短期留学だった。仕事の肩書を離れ、学生として立場や年齢に関わらず学べる環境に刺激を受けた。退職後、自由になった時間の使い道を考えた時、ずっと引っかかっていた「大学」という存在に心が引かれた。学校見学は娘に付き添ってもらい、レポートの書き方は息子に手ほどきを受けた。いつの間にか、親と子の立場が逆転していたが、家族の協力が背中を押した。
 川村さんが選んだのは通信教育という手段。昨年入学し、毎日4~5時間の自宅学習が日課となった。加えて週に1~2回は都内へ新幹線通学し、授業を受けている。仕事では決して履くことがなかったスニーカーを履き、新調した斜めがけのかばんに教科書を何冊も詰めて通学路を歩く。通信教育は試験範囲が広いので、300ページもある経済の教科書を丸々頭に詰め込まなければならないことも。奮闘する姿を、夫はそっと見守っている。成績を見せると「偉かったね。頑張ったもんな」とほめてくれる。密かにそれが、一番の励みになっている。

「美大卒」の新しい私

 富士市の八木めぐみさんは、グラフィックデザインや商品の企画開発の現場で活躍しながらも、美大への進学を決めた。基礎からデザインを学び直したいと考えたからだ。
 デザインの世界に興味を持ったきっかけは、仕事でポスターを作成したことだった。その後カルチャースクールでグラフィックデザインを習得。ところがデザインの理論を深く知ることはできず、もどかしさが残った。
 仕事を続けるうち、 "美大卒"という新しい自分を求めるようになった。じっくり学ぶことで、自分に自信をつけたかった。美大卒であれば仕事での説得力も増す。34歳の時、武蔵野美術大学に入学。仕事を続けながら通信教育課程でデザインを学び始めた。
 入学後の道のりは想像以上に険しく、仕事後に教科書を開く日々は体力と気力の勝負だった。週末は徹夜で課題に取り組み、月曜になれば寝不足のまま仕事場へ。それでも踏ん張れたのは、向上心の高い同志や恩師のおかげだった。八木さんの士気は次第に高まり、バナナをモチーフにした視覚体験の卒業制作は、優秀賞を受賞。昨年の春、卒業とともに得た達成感は、自信と勇気をもたらした。未知への挑戦の意欲もさらに高まった。「いくつになっても全力で取り組んだ経験は、未来の支えになりますね」と微笑む。
 キャリアアップのために美大へ通ったが、現在は仕事の在り方を見直し、"丁寧な暮らし"に重きを置いている。それには、大学での学びが大きく影響した。
 「効率を求め過ぎない生き方や、手を動かし、感謝の気持ちを肌で感じる生き方を実践しています。武蔵美で学んだことで世界が大きく広がり、人生が豊かになりました」

取材協力 / 静岡大学 武蔵野美術大学校友会  撮影協力/ 静岡大学 富士市産業支援センターf-Biz

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