特集 | 2020.10月号

アステン特集

切り離された世界で読む本

大切な人たちと距離を置いたまま世界から取り残されたような気持ちになったとき、ネットを飛び交う不確かな情報に心が迷ったとき、本は世界とつながる道筋を示してくれる。日々本と関わり続ける4人が今読みたいいくつかの本を教えてくれた。

自分で考える力を身に付ける

 日々変わっていく感染症の拡大状況や「新しい生活様式」に疲れや不安を感じがちな今、「右往左往しないよう、自分で考える力が必要です」と作家の瀬名秀明さんは言う。静岡市出身で薬学博士でもある瀬名さんはことし6月、信頼する感染症専門家とともに「ウイルスVS人類」(文春新書)を著し、新型コロナウイルスがもたらすさまざまな問題と解決の鍵をいち早く書籍の形で発信した。このウイルスが出現するよりずっと以前から感染症の脅威に着目してきた一人だ。
 瀬名さんが「自分で考える力を持つ」ための一冊として挙げたのが、速水融著「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」(藤原書店)。100年前に日本でも猛威を振るったスペイン・インフルエンザの影響をまとめた歴史書だ。「この流行病が第一次世界大戦を終わらせたといわれるほど多くの死者が出たのに、終息すると原因がよく分からない病気としてすぐに忘れられてしまった。この本はわずかな史料を手掛かりに、日本で起こった事実をさまざまな角度から掘り下げています」。各地方都市が独自のアイデアで予防策の普及に努めた様子や、幼い患者の死を目の当たりにした医師が自分や家族を被験者にしてまで治療に執念を燃やした実話。志賀直哉や与謝野晶子がこの流行感冒をどう受け止めたのかも紹介されている。「今と似た状況の中で、日本人がどう行動したのか知ることができます」
 そして瀬名さんが最近読んでいるというのが、映画版公開も予定される上橋菜穂子著「鹿の王」(角川文庫)。ファンタジーだが日本医療小説大賞を受賞している壮大な作品だ。「文明が発達していない異世界で奇妙な疫病が流行る中、主人公だけが生き残るところから物語が始まる。つまりパンデミックを描いた物語なんです。現代医療では、感染して免疫を獲得した人から抗体を採って治療に使うということをしますが、それを医学用語は全く使わず別の言葉で表現しているのが面白い。別世界の話を現実と照らし合わせて読む楽しさがあります」
 本を通じて自分と違う世界にいる人を想像することが、現実でも他者の心を想像するきっかけになる、と瀬名さん。「ウイルスの完全な撲滅は不可能でも、互いに相手を思いやって問題を一緒に考えていく社会になることを願っています」

声に出して読むと脳が動き出す

 「非日常の危機が迫れば、普段冷静な人でも的確な判断が難しくなったり攻撃的になったりします。大人も子どももストレス・マネジメントが必要」と、心に効く絵本を紹介してくれたのは、静岡県立こども病院内にある医学図書室の司書・塚田薫代さんと、スタッフの細澤菜々さん。2人は医療従事者に専門書や論文などの情報を提供する一方、地域の図書館に向けて医療に関するお薦めの本を紹介している。その中には心のケアにまつわる本も少なくない。
 塚田さんが薦める、ラマディエ/ブルゴー著「ぷんぷん えほんくん」(パイインターナショナル)は、大人も読みたい心の絵本。絵本の表紙が真っ赤になってぷんぷん怒っている。そして、ご機嫌を直すにはどうしたらいい? と読者に投げ掛けてくる。見守ったりタッチしたりしてページをめくるうち、少しずつ穏やかになっていくえほんくんの表情に、読む側も心が和らいでいく。「怒っているえほんくんを少しも責めていないところがいいんですよ」と塚田さん。「心がささくれだったとき、子どもと一緒に読むといい本です。読み聞かせをすると、聴く側よりも読んでいる人の脳が活発に動くことが分かっています。心がゆったり落ち着いて笑顔になれる効果があるんですよ」。塚田さんがとっておきの絵本と呼ぶ「こころに すむ おおかみ」(じゃこめてい出版)も、心が迷ったとき声に出してゆっくりとかみしめたい一冊だ。
 細澤さんが紹介する絵本はファイニク/バルハウス著「わたしの足は車いす」(あかね書房)。車いすに乗る少女アンナが一人でお使いに出かけ、自分から人に助けを求めることを学ぶ物語だ。アンナと同じく車いす生活をする細澤さんは、このコロナ禍で周囲の人に落ちた物を拾ってもらうことすら頼みにくく感じるようになった。「この絵本は『こうしてください』と声を掛ける自信を持たせてくれる本。助ける人と助けられる人の心のバリアフリーを考えさせてくれます」と細澤さん。車いすの人にどう手を差し伸べたらいいのか戸惑う人のヒントにもなる。

こんなストレスにはこんな付き合い方

 「メンタルに関する本は、ここのところ年代を問わず人気です」と話すのは、MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店の若手スタッフ、久保田理恵さん。数あるメンタルヘルス本の中でも久保田さんが薦めるのは、樺沢紫苑著「精神科医が教えるストレスフリー超大全」(ダイヤモンド社)だ。コロナ疲れに限らず、SNSとの向き合い方から、健康的にやせる方法、嫌なことを忘れる方法まで、あらゆるストレスとうまく付き合う方法を科学的に解説している。「ストレス1項目当たり数ページで完結しているので、自分が気になるストレスのところだけ読んで実践できるし、イラストや図で可視化してあって分かりやすいんです」と久保田さん。もっと詳しく知りたくなったとき、参考になる本や映画なども掲載。手元に置いて困ったときに開く事典のような一冊だ。同じ著者による「学び効率が最大化するインプット大全」「学びを結果に変えるアウトプット大全」(ともにサンクチュアリ出版)も久保田さんの愛読書。自分を向上させる具体策が満載で、こちらは仕事や勉強に役立つはずだ。
 もう一冊、ステイホームのお供として久保田さんが選んだのは、とがわ愛著・坂井建雄監修「はじめてのやせ筋トレ」(KADOKAWA)。「運動が好きでない人にも実践しやすい筋トレ法が紹介されています」。その筋トレでどこを鍛えられるのかという解説もあって分かりやすい。
 昔から本好きで書店の仕事を選んだという久保田さん。「本は誰かが自分の人生を切り取って作ったからこそ魅力があります」と話す。心がざわついたときには書店や図書館の書棚の間を歩いてみるといい。別の誰かの目線を通じて、新しい世界へつながるために。

取材・撮影協力 / 静岡県立こども病院  MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店 TEL. 054-275-2777

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