特集 | 2016.10月号

アステン特集

今、旅に連れて行くもの。

おいしいものを食べたり、美しい景色を眺めたり、醍醐味はたくさんあれどそれだけじゃない旅もあることを、私たちは知っている。あなたは何を持って行って、どんな旅をする?

SNS、写真のためのアイテム。

  旅先に合わせてワンピースやサンダルを新調することもあるし、すてきなスーツケースに出合ったのをきっかけに旅に出ようと決める人もいる。思い出を書き記すスケッチブックや、お寺巡りに御朱印帳が必需品、という人も。
 お土産物を選ぶようにたくさんのものを得る旅もあれば、抱えた重荷をきれいさっぱり、空っぽにしてくる旅だってある。
 何を持って行き、何を持ち帰るかに、その人の旅への思いが表れる。
 旅の持ち物にももちろん流行があって、今はもっぱら、スマートフォンやカメラに関連したアイテムが注目を集めている。
 「スマートフォンでの自撮りはすっかり一般的になっていて、そのための便利グッズがたくさん出ています。旅先でもSNSを意識して、写真をより面白く、個性的に撮るためのものも、種類が増えましたね」。そう教えてくれたのは、東急ハンズ静岡店の横山奈央さん。
 スマートフォン用の三脚はポケットにも入るコンパクトサイズ。挟むだけでOKのクリップ式レンズも、世代を問わず人気だとか。化粧ポーチに収まるほど小さなレンズ1つあれば、景色を広く撮れたり、魚眼風になったり、道端の花にグッと近寄って接写できたり。今、写真を撮ることは、単なる旅の記録や思い出作りにとどまらない。その場所でどう感じたか、何を面白いと思ったかを、自分の感性で切り取り、その場で共有し、共感してもらうためのツールの一つ。
 誰かが発信した旅のワンシーンが、SNSを通じて広がって、身近な人たちの、時には見知らぬ人たちの旅心をくすぐる。そして次の旅へとつながっていく。

音楽プレーヤー。マネークリップ、小銭入れ。

 インド、ベトナム。タイ、マレーシア、バルト三国、その他もろもろ。焼津市の青島香さんは、言葉も文化も違う国に、時に一人で、時に友人と旅をする。移動中、欠かせないのが携帯音楽プレーヤー。どの国でもつい聴いてしまうのは、いつも同じ「しんみりする曲」。楽しくてワクワクするはずの旅でなぜ「しんみり」?
 「仕事でベトナムに住んでいたころ、通勤中に気に入って聴いていたんです。それがたまたましんみりする曲だったからでしょうか」
 時間通りに到着しない電車や、今まで会ったことのない価値観の人たちとの出会いに、戸惑うことばかり。ガヤガヤと落ち着かない街の喧噪(けんそう)を、半ばシャットアウトするためにイヤホンで耳をふさいだ。その時好きだった曲を聴くことで「本来の自分を忘れないようにしていたのかも」と青島さん。
 何年も前の出来事だが、旅先であえて愉快じゃない気持ちを呼び起こすのは、「その時より今は楽だと自分を納得させるため。そして、どこにいても私は私、と本来の自分を再確認する作業なのかもしれません」
 それが異文化の地を訪ねる理由?
 「例えば、乗り物の交渉をしても全然違う場所に行っちゃったり、最初に頼んだのと違う金額を請求されたり。何をするにもまず交渉から始まるのに、そもそもそれ自体がスムーズじゃないんですけど」。一方、日本はといえば「言わなくてもやってくれるのが当たり前」。相手のことを察するのが良質なサービスだと思えるような部分に、たまに息苦しさを感じるという。
 「私は決して社交的なタイプではないけれど、外国では私を一人の人として値段交渉してくるんですよね。だから欲しければ自分自身で交渉しなければならない」
 財布ではなくマネークリップと小銭入れを使うのも、恩師から「旅先でトラブルを避けるためには、スマートにお金を出せた方がいい」と教えられたから。SIMフリーケータイも、いざというとき自分で対処できるように。相手に待ってもらうことを期待するのではなく、準備して自分が慣れる。「私は私でいたい、っていう願いが無意識にあったのかな。私でいる瞬間を多く感じるのが、海外だったということなのかもしれないですね」

お守り代わりのブレスレット。

   静岡市の近藤佳世子さんが旅する先はいつもグアムだ。学生時代に初めて訪れて大好きになり、幾度となく足を運んだ。仕事や子育てに慌ただしくしていたころは、時間にも心にも余裕がなくて遠ざかったものの、久しぶりに気晴らしで「旅行してみたら? 」と勧められ迷わず「じゃあグアム」と答えた。
 言わずと知れた人気のリゾート地。海と空の青さや突然の雨、立ち昇る土や草の匂い、洗練されすぎていない肩の力の抜けた雰囲気。すべてが「自分に合う」と感じる場所だけれど、近藤さんが心引かれるのは、ここで「願ったことが一つずつかなっていく」経験をしたから。
 「まだ小さかった子どもたちを連れて行ったときも、ぜいたくではないけれどそれなりに楽しめたんです。帰国後、知人にそう話すと『自分を高めたいと思うなら、来年も行った方がいいよ』と」
 ただし次は、今回と同じではなく「もっとこうしたかった」をちょっと無理してやってみること。例えば、ホテルのグレードを一つ上げる。アクティビティーを一つ増やす。その翌年にはもう少し上、というふうに目標を少しずつ上げていく。いつもなら「無理なんじゃない? 」と躊躇(ちゅうちょ)することも、グアムだと素直に「やってみよう」と思えて、結果「ゲームみたいにかなっていった」と近藤さん。
 「グアムに友達がほしいなあ...と思っていたら、たまたま入ったお店で知り合った人と話が弾んで仲良くなれて。グアムで『今度もかなうかな』って試しているし、私自身も試されているのかも」
 いつもグアムに持っていくと決めているのは天然石のブレスレット。仕事や生活のあれこれをグルグル考えてしまう流れを、スパッと断ち切るのに欠かせないアイテムでもある。
 「お守りがわりに身に着けているものだけど、新しいものに替えたら『今までありがとう』と思いながら、糸から外してグアムの海にかえすんです」
 さしずめ、「さあ行くよ!」と踏み出す小さな儀式。手のひらサイズの旅のお供が、次のステップへと背中を押すチカラをくれる。

デジタルもアナログも、旅を楽しくする。

 今どきの旅、電源確保の対策は必要不可欠。東急ハンズの横山さんは「太陽が出ている場所ならどこでも使えるので」と、ソーラー充電式バッテリーを薦めてくれた。
 そして最近、ちょっと興味深い傾向も。
 「若い人たちの間で注目されつつあるのが、フィルムを使用するインスタントカメラ。物心ついたときからデジタルカメラが主流で、撮ったものがその場ですぐ見られるのが当たり前の世代にとって、旅行から帰って現像に出すのが新鮮なのだそう」
 アナログならではの「出来上がるまでどういう風に撮れているか分からない」待ち時間も、旅を楽しくする。

取材・撮影協力 / 東急ハンズ静岡店 CORDE(青島香さん) カラフルホームスタイル(近藤佳世子さん)