asten PEOPLE | 2016.11月号

asten PEOPLE

日詰明男

造形作家

SLの汽笛が届く山あいの古民家。風呂敷に包まれた大小の箱から竹ひごや樹脂でできた立体が次から次へと出てきて座卓の上はいっぱいになった。いずれも造形作家・日詰明男さんが“黄金比”を基に作った作品だ。11月20日(日)まで、東静岡にこの黄金比を使った竹の実験都市を創出するという。

"数学や幾何学は、決して僕らを枠にはめるのでなく、むしろ従来の不自由さに気付かせ、隙間を作る。"

Q.東静岡で展開する「ヒロバプロジェクト」について教えてください。

五角形を基にした黄金比による区画を描き、そこに一般参加の皆さんと一緒に五本足の竹のティピ(家)を建てて迷路都市を作ります。以前、大阪成蹊大の学生たちと同様の試みをした時には放送局や飲食店、警察署など学生が勝手に都市空間を形成し出して。これには興奮しました。今回もどんなことになるのか楽しみです。

Q.五角形の区画によって生まれるものとはどんなものでしょうか。

基になっているのは阪神大震災の後に発表した設計案です。碁盤の目のような都市では、災害で道がふさがれると緊急車両が現場に着けない事態が起こることがあります。でも、五角形でできた区画なら10方向の迂回路(うかいろ)が取れるんです。家も長方形より五角形の方が耐力壁が多くなるから倒れにくい。放射状に広がった都市のような中心もない代わりに、どこでも中心になり得るのも特長。四角い都市にありがちなスラム化も、ここでは起りにくいと考えています。都市設計や工学的なこと以外では、出合いが増えるというのが利点。図書館の書棚や美術館の作品配置にぜひ取り入れてほしい。一方向に並ぶって無粋ですよ。多方向、多角的になればもっと魅力的な空間になると思います。

Q.これまで訪ねた中で、自然の摂理に逆らわずかつ魅力的な実在の街はありますか?

いっぱいありますよ。日本の合掌造りの集落や漁村、エーゲ海の集落...いずれも自然の地形に合わせて数千年、何世代もかかって少しずつ形成されたもの。まったく無駄がない。

Q.古い街並みのように自然発生的なものと計画的に作られたものは相反するようにも感じますが。

例えば細胞の美しさって幾何学的でしょう? 自然界は、ヒマワリの種や葉が重ならないよう生長していく植物など、まさにフィボナッチ数列や黄金比で表せる無限性であふれている。エーゲ海の集落にはそれに似た迫力があると思いませんか? 何でこういった魅力的な形になったのかという"原理"を理解したいと思って幾何学を研究し始めたわけです。僕が提案する数学は、むしろこれまでの不自由さに気付かせてくれたり隙間を提供してくれたりするんです。

Q.作品の素材に竹を使うのはなぜでしょう。

すぐ手に入り、安く、直線。さらに強く、しなやかで軽い。五角形の造形を二次元、三次元...と発展させていくのに最適でした。それにアジアの神話や文学に神聖なものとして登場することを知ってすっかり魅せられてしまいました。地下茎のネットワークと僕が扱う幾何学なんて性質がほぼ同じと言っていい。木と草の分類からはみ出して西洋文明にプロテスト(抗議)している感じもいいですね。

Q.川根本町とはどんなご縁があったのでしょうか。

五角形の都市計画を恒久的なもので実証させたいと思い、「まず迷路状の畑を作ろう」と考えました。それで土地を探していたら友達の友達の友達がここを教えてくれて即決。畑にはまだ着工できていないんですが、この地域のおおらかさは実験的な試みに合っていると感じています。大井川鉄道やつり橋もいい。何よりお茶のうまさ、深さにはびっくりしています。

PROFILE

1960年、長野市生まれ。87年、京都工芸繊維大建築学科卒。2008年から武蔵野美術大特別講師、09年から龍谷大理工学部客員教授。黄金比に基づくフラクタル構造を造形や音楽で表現。主な作品に「民主主義的階段」(97年・米国、05年・ニュージーランド)、「フィボナッチ・ケチャック(たたけたけ)」など。

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