asten PEOPLE | 2017.3月号

asten PEOPLE

熊本マリ

ピアニスト

静岡市でコンサート「作曲家のラブレター」(静岡新聞社・静岡放送主催)を開催した熊本マリさん。ショパン、シューマンといったロマン派のピアノ曲の数々を時にドラマティックに、時に切なく奏でた。演奏後の楽屋を訪ねると「弾いた後はとても気持ちいいんです。全然疲れてません」とエネルギッシュ。パワフルな輝きに満ちたインタビューをどうぞ!

"音楽は心で楽しむもの。好みの味があるように、「いい」と感じるのがその人にとっての良い音楽。"

Q.「作曲家のラブレター」は熊本さんのピアノ演奏と俳優・石田純一さんの朗読というユニークな趣向でした。

このシリーズは10年ほど前から続けています。あまりコンサートに行ったことがない方が入りやすいのではないかと思いますし、ここからまた別の方のコンサートに行ったり私の別のコンサートに来ていただいたりするきっかけになればいいなと思って続けています。

Q.作曲家の恋愛や人物像を知った上で聴くと、印象や響き方が変わりました。

例えばリストだったら「ハンガリー狂詩曲」など皆さん何となくご存じだと思います。でも、リスト自身の恋愛やどういったものを書いたのかまで読んでいる人はなかなかいないですよね。バックグラウンドを知ると、生身の人間が生み出したものであることをあらためて感じることができると思います。どの作曲家もそうですが、特に一人挙げるとしたらブラームスですね。音楽が地味だから。

Q.作曲家の人物像を知ることでご自身の演奏が変わった経験はありますか?

演奏自体は変わらないかもしれないけど、理解できることで思いの深さが変わることはあります。やはり知った方が面白いですから。もっともっと自由になります。例えば奔放だったリストが年齢を重ねて落ち着いていき、作品も変わっていく。(変化という)精神の自由さを感じながら弾く、というようなことはありますね。

Q.スペインで音楽を学ばれたということですが。

音楽を学ぶために行ったのではなく、家族で移り住んだのでスペインで学ぶことになったんです。ピアノは5歳で始め、10歳でスペインに渡りました。当時、日本では正確さを求められていましたが、スペインでは音楽性やピアノの音色、そして歌うように弾くことを小さいころから徹底的に教えるのが大きな違いでしたね。スペインの音楽って本当に豊富なんですが、日本ではあまり知られていないので広めています。イギリス、ニューヨークでも学び、さまざまな経験や出会いが音楽に生きています。日本で生まれ育ったら大学を卒業してから海外へ出るケースが多いと思いますが、私は海外生活の方が長かったので、自然に多文化に触れられたのは幸せなことですね。

Q.まったくピアノから離れる日はあるのですか?

昨年、「朝から晩までピアニスト」というエッセーを出したのですが、その題名通り、弾かない日はやはり落ち着かないんです。でもたまにはありますよ。

Q.美しさを保つためにしていらっしゃることはありますか?

何にもしない。やったこともない。興味がない。「自然体」というのが自慢ですね。髪の毛も生まれてから一度も染めたことがないんです。日本人の黒髪は世界の人がうらやむんですよ。

Q.静岡の皆さんにメッセージをお願いします。

きっとピアノを習っている子どもたちがいっぱいいると思うんです。日本では手が小さいことで失望してピアノをやめてしまう人が多いようなので、手が小さくて不利と感じている人がいると「私と比べてみて」って言うんです。そうすると大体私より大きいの。私、手が小さいんですよ。今回、「朝から晩までピアニスト」に実寸大の私の手の写真を載せました。手は大きさではなくて、どう使うかなんです。趣味としてピアノを楽しむ人にもプロを目指す人にも勇気を与えたい。それから、音楽は心で楽しむもの。有名な作曲家だから良いというものではないんです。味の好みが人それぞれ違うように、自分が「いい」と感じるのがその人にとっての良い音楽。ルールに縛られずクラシックに親しんでほしいですね。

PROFILE

東京生まれ。10歳で家族とともにスペインへ移住。スペイン王立マドリード、米ジュリアード、英国王立の各音楽院で学ぶ。スペインの作曲家モンポウのピアノ曲全集の録音を世界で初めて完成させた。国内の主要オーケストラをはじめ、海外でもチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ヨセフ・スーク&スーク室内オーケストラなどと共演。大阪芸術大演奏学科教授。近著「朝から晩までピアニスト―元気 奏でる小さな手」はハンナより発刊。
オフィシャルホームページ http://www.marikumamoto.com/