asten PEOPLE | 2017.9月号

asten PEOPLE

初野晴

小説家

「ハルチカ」を清水区を舞台にした映画作品として知った人も多いのでは。原作は初野晴さんの本格推理小説。推理小説といっても殺人犯や刑事は登場しない。主人公は高校の吹奏楽部員、ハルタとチカ。“ハルチカ”シリーズとは? ご本人にインタビュー!

"10代に触れたものでその人のセンスは決まる。文芸の面白さ、知らないのはもったいない。"

Q.映画の後に原作を読みました。"吹キュン"と銘打った映画とはだいぶ趣が違いますね。

元々この作品は連作短編。1巻につき4話収録で、それぞれの話の密度が濃く、映画の尺に合わせて再現すると、かなり忙しいダイジェスト版になってしまいます。それで「映画としての完成度を追求した新しいものにしてください」と早い段階で監督にお願いしました。原作者としては謎解きはやはり活字の世界で味わってほしいし、小説にないリアリティーの部分を映画は描けているので良かったと思っています。

Q.原作は、身近にあるのに目を向けずにいたものやそんなに古くない出来事なのに知らなかったことが素材になっているのが興味深いです。

歴史やサイエンス、世界...と広がり感を出すようにしています。日常生活と地続きになっているんですよね。大人も読み応えを感じられるものに、と意識して作り込んでいます。80年代、90年代のものをこっそり刻印で入れていて、僕自身も楽しんで書いています。時事性は大事だけど、それ以上に普遍性を持たせたい。だからラインやスマホといったアイテムは入れていないんです。

Q.高校生を主人公にしたのは何か理由がありますか?

ミステリーを描くとき、キャラクターを動かしやすいからです。例えば刑事だったら仕事で動くけど、10代の若者は好奇心で動くし、おせっかいも焼ける。1話1話テーマを持たせているので、その純度を高めるためにも高校生の彼らは必要なんです。

Q.これも世代を超えるツールだと思いますが、ラジオが出てきますね。

この時代だからあえてラジオ。昔からラジオマニアです。外野が少ないのでリスナーとの密室性が生まれるのが癖になる。沈黙は許されないし、真剣勝負という感じもします。僕は聴きながら書けるので、仕事中もつけていて、最近、社会時事ネタはテレビよりラジオで捉えることが多いですね。

Q.謎解きの着想は何から得ているのでしょうか。

元々本が好きで、理系のドキュメンタリーなどを数多く読んでいました。ふとした時に記憶がつながるんです。普段の読書も興味の向くまま、感性のままに読む方が外さないですね。

Q.会社員との二足のわらじを履いていたと伺いました。

制御部品メーカーに17年ほど勤めていました。大学生の時から短編小説は書いていて、入社3年目に腕試しをしたくて投稿を始めました。幸運なことに挑戦3年目で受賞でき、授賞式で「会社辞めていいですか」と担当者に聞いたら「いや、絶対に辞めるな」と強く言われまして(笑)。それでアドバイス通り12、3年、帰宅後に書いていました。しんどかったけど、メリハリがついて楽しくもありました。おかげさまでファンの方がついてきてくれたので40になって退社したんです。転勤のたびに2000冊の本と共に引っ越す生活からようやく解放されました。

Q.「本離れ」などと言われていますが、どうお考えですか?

10代のうちに触れた本や映画、音楽でその人のセンスって決まる気がします。そういう時代をスマホだけに費やすのはもったいないですね。インターネットは情報通にはなれるけど思考が深まるわけではない。テレビも表現の自主規制が多い。その点、文芸の世界はジャンルも表現も壁がないから読む価値があるよ、と伝えたい。面白くなければ最後まで読まずに次を手に取ってもいいと思うんです。いつか必要になる。その時読めばいい。

PROFILE

1973年、静岡市清水区生まれ。清水南高時代は柔道部所属。法政大工学部卒。2002年、「水の時計」で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。ファンタジーとミステリーを融合した独特の世界観で注目を浴びる。近著に"ハルチカ"シリーズ番外編「ひとり吹奏楽部」(角川文庫)など。