asten PEOPLE | 2017.1月号

asten PEOPLE

瀬名秀明

作家

作家・瀬名秀明さんの最新作「この青い空で君をつつもう」(双葉社)は瀬名さんが高校を卒業するまでを過ごした静岡市が舞台。静岡人の読者ならきっと、慣れ親しんだ風景が次々に登場するのに驚くと同時に、登場人物の息遣いを生き生きと感じられるはずだ。

"静岡は、故郷の空を持っていて未来や希望をつかんでいく場所"

Q.「この青い空で君をつつもう」は現在の静岡が舞台ですね。

青春小説の依頼を受けた時に、地元を舞台にさせてほしいとお願いしました。昨年3月に母校の静岡高校に連絡をして訪ね、描きたかった美術部の生徒さんにお目にかかることができました。駿府城公園やその周辺をレンタサイクルで回り、翌月には呉服町界隈や清水、焼津を巡りました。すでに家族も他県へ移っているし、高校卒業以来静岡に帰る機会があまりなかったのですが、この取材で何となくアップデートしたという感じです。

Q.設定を現在にしたのはなぜでしょうか。

3年ほど前に、静高の講演会の講師として呼んでいただいて在校生を前にお話ししました。生徒さんが熱心に質問をしてくれたので、最近の静高生もいいよね、と(笑)。その時、美術部の部長さんから卬高祭(文化祭)で「ステンドグラス」を制作するのが恒例になっていると聞いたんです。ウェブで見たら非常にきれいだったので、題材にしたいなというのも最初のイメージでありました。

Q.マラソンコースの風景描写があったり、階段を駆け上がって見た風景に対して主人公が感じた思いが書かれていたりしました。高校時代のご自身の実感ですか?

高校の体育は、夏は水泳、冬はひたすらマラソンでした。当時は必死だったので景色を見上げる余裕はなかったですね(笑)。雨の日に保健の先生が有吉佐和子の「複合汚染」を読む、というのは僕自身の体験です。引き込まれました。当時は見えなかったものもあるんですが、校舎の雰囲気や窓からの景色...たぶんあの頃も感じていただろうな、というものを書いたつもりです。

Q.高校生を主人公に、かつ恋愛をテーマにする、という作品はこれまでなかったのでは。

なかったですね。高校時代とは、「自分がまだうまく固まっていないんだけど、『これから専門を持つことで社会に何かできるだろうか』ということを考える時期」だと思うんです。青春小説と言うと、ひと夏に花火のように思いが散るとか死によって昇華するとかいったものになりがちですが、僕は「その後」を書きたいと思いました。友人や好きだった人のために未来にできることを考えていく女の子の話にしたいなと。この作品で静岡というのは、故郷の空を持っていて、未来や希望をつかんでいく場所なんです。

Q.恋愛小説とはいえ、やはり瀬名作品らしいサイエンスがありましたね。

サイン会などで「『パラサイト・イヴ』を読んで薬学の大学に入りました」とか「『BRAIN VALLEY』を読んで脳科学に興味を持ち、その分野に進むための受験勉強をしています」などと言ってくださる方が結構いらっしゃるんですね。小説を読んで科学に興味を持ち、その興味の先に何か開けるのではと動き出すきっかけを与えられたのだとしたらすごくうれしいことです。今回取り入れたのは、実用化されている技術に基づく私の創作です。

Q.時のつながりを感じる作品です。

私はこの作品を、同じ時間に巻き戻る「ループもの」とは違う「ループしないループもの」ととらえています。同じ季節がまためぐってきたり、亡くなった人の思いが時を経て伝わってきたり。例えば、お父さんお母さんが読んで中高生の子どもも読んで、思いを共有してもらえたりしたらうれしい。本棚の隅にずっとあって、こういう小説読んだなと時々思い出してもらえる本であってほしいと願っています。

PROFILE

1968年、静岡市生まれ。東北大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。95年に「パラサイト・イヴ」(新潮文庫)で第2回日本ホラー小説大賞を、98年に「BRAIN VALLEY」(新潮文庫)で第19回日本SF大賞を受賞。科学ノンフィクションに「さあ今から未来についてはなそう」(技術評論社)などがある。東北大機械系特任教授も務めた。仙台市在住。