asten PEOPLE | 2017.5月号
須川展也
サクソフォン奏者
クラシック・サクソフォンの世界的奏者・須川展也さんは、サックスの響きを「人間そのもの」と語る。美しさだけでなく、嘆きや叫びに通じる“汚さ”も併せ持ち、それをいかに生かすかで人の心を揺さぶる演奏になるのだという。

"サックスの音色は『人間そのもの』。嘆きや叫びをも奏でる楽器。"
Q.高校卒業までを浜松市で過ごされました。
佐賀県で生まれて、2歳で浜松に移りました。伸び伸び育ててもらいましたが、音楽に親しんだ方がいいという親の方針や、浜松で吹奏楽に触れる機会に恵まれたことが音楽の道を歩き始めたきっかけです。小学生でフルートを始め、格好良さに憧れて中学の吹奏楽部でサックスに転向しました。もう一つの転機は中学の音楽の授業。鑑賞の時間にゼビー作曲「アルルの女」を聴いて衝撃を受け、「クラシックのサクソフォンの魅力を世界に広めるんだ」という思いをこの時に抱きました。
Q.高校は進学校・浜松北高のご出身ですね。
親が「北高に入ったら楽器を買ってやる」と言うので一生懸命勉強したんです! 晴れて自分の楽器を手にしてさらにのめり込むうちに、専門にしたいという思いがどんどん強くなり、反対を押し切って東京芸大を受験しました。高校生の時から故・大室勇一先生のレッスンを受け、芸大でも続けて大室先生の指導を受けることができたので、戸惑いながらも支えてくれた親には感謝しなければいけませんね。
Q.須川さんがソプラノサックスを担当するサクソフォン四重奏団「トルヴェール・クヮルテット」が結成30周年を迎えました。
4人とも大室先生の指導を受けた同門の仲間です。サクソフォンを演奏する形態は主に、ジャズ、ピアノとのソロ、コンチェルト、四重奏...この四つがあり、四つ全部やりたい(笑)。彦坂眞一郎君と田中靖人君とは元々友人同士。四重奏団を組みたいと先生に相談したところ、新井靖志君を紹介してくださいました。昨年9月に新井君は突然亡くなってしまったんですけれども、今思うとベストなメンバーを先生が引き合わせてくださった。先生なしではこのカルテットはなかったと言えます。また、ソロもハーモニーも生かせるフレキシブルなアンサンブルができるように、結成からしばらくしてピアノの小柳美奈子に入ってもらい5人でやる機会が増えました。「個性と融合」を大切に続けています。
Q.トルヴェールは須川さんにとってどのような存在ですか?
それはもう家族のようなものです。30年前、クラシックでのサクソフォンの認知度はそう高くありませんでした。もっと知ってほしい、と最初は野外イベントなどでの演奏が多かったですね。ルーツがそこにあるので、中世フランスの辻音楽師を指す「トルヴェール」を名前に取りました。
Q.「トルヴェールこの一曲」を選ぶとしたらどの曲でしょう。
うーん、全てと言いたいところではありますが...。ラヴェル(新井靖志編)の「弦楽四重奏曲」はわれわれが非常に大事にしている曲です。ホルストの「惑星」を基にした「トルヴェールの《惑星》」(長生淳編)も代表曲と言えると思います。
Q.音楽監督を務めるマリナート・ウインズ(静岡)はどのような楽団でしょうか。
その年ごとに団員を募集する期間限定の吹奏楽団です。吹奏楽は日本で半世紀以上盛んですが、学校を卒業すると演奏する機会もなくなってしまう人がほとんど。こうした人たちも年に数回なら集まって一つの目標に向かって練習できるんじゃないか、ということで始めた試みです。生涯にわたって音楽に携わる楽しさを、大人から子どもに、清水から全国に伝えていけたらいいなと思っています。
Q.トルヴェール・クヮルテットは7月、シンフォニエッタ静岡と共演されます。
サクソフォン四重奏とオーケストラの協奏曲というのは非常に少ないんです。今回は、マルティノンの「サクソフォン四重奏と管弦楽のための協奏曲」というほとんど知られていない曲と、長生淳さんが僕らのために作曲してくれた協奏曲「プライム・クライム・ドライヴ」、と2曲も演奏します。大変貴重な機会ですのでぜひ足をお運びください。

PROFILE
東京芸術大学卒。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー。東京芸大招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。6/4(日)アミューズ豊田ゆやホールで「渡辺香津美&須川展也プレミアムジャズライブ」、7/22(土)グランシップ中ホールで「シンフォニエッタ静岡第50回定期演奏会」に出演する。