asten PEOPLE | 2018.4月号

asten PEOPLE

三谷幸喜

脚本家・演出家

「曾根崎心中」の裏側を描いた三谷文楽「其礼成心中(それなりしんじゅう)」が8月、グランシップで上演される。2012年に東京で初演されて以降、各地からのラブコールに応えて再演を重ねている注目作。静岡初上陸を前に三谷幸喜さんにインタビュー!

"小さな人形が見せる、人間以上の人間味。コメディーとしての文楽を実現。"

Q.文楽との出合いについてお聞かせください。

僕は子どもの頃から人形劇に憧れがあって、文楽にも非常に興味を持っていました。初めて見るまでは、対象物の小ささや、そこにいるのに見えない約束事になっている人間がたくさんいて物語に集中できるのか、といった不安がありましたが、始まってものの1分もたたないうちに夢中になってしまいました。人形遣いさんも目に入らなくなる、この世界は何なんだ、という驚きがありました。

Q.舞台演劇との違いを最も感じた部分は。

登場人物が死ぬシーンを見た時です。生き生きと動いていた人形たちが、人形遣いの手を離れた途端ただの物体になってしまう。魂が抜けていく瞬間を目の当たりにした怖さがありました。すごい表現ができるものなのだと感じ、いつかやってみたいという思いを抱きました。

Q.文楽といえば悲劇がほとんどですが、「其礼成心中」はコメディーです。

僕が喜劇作家だからということに尽きるんですが、人間でないものが人間のような動きをした時に、そこに自分たちを重ねておかしさを感じるということが誰にもあると思うんです。小さくけなげな人形たちが、僕ら以上に人間的に考えたり感情を高ぶらせたりする。この、はかなさと背中合わせのおかしさを増幅させたら、見たことのない文楽コメディーができるのではと思い試みました。

Q.最初に脚本を書かれたとき、この反響は予想していましたか。

いや、人形と音楽と語りが一体となって初めて文楽、という基本も分かっておらず全てが手探りでした。稽古の仕方も違いました。普段の僕の舞台は群像劇が多く、何もしていないと逆に目立ってしまうので全員に動きを付けます。文楽ではメインとなっている人形以外はじっとしている。僕らの感覚ではもったいなく感じたので、動きを付けてもらったら、その瞬間、誰がしゃべっているのか分からなくなり場面が成立しなくなってしまった。びっくりしました。あの頃は毎日が新鮮でしたので、まさか8年後もずっと続いているとは考えられませんでした。幸せなことです。

Q.伝統的に使われている人形を使うのも文楽の特徴ですね。

ある意味「劇団」ですね。そして彼らは決して死なないので古株がずっと残っています。主役しか演じない「かしら」もあれば、脇しかできない「かしら」がある。僕は脇で頑張っている役者が好きなので、普段主役になりえない人形を「この人に」と選びました。だから、この作品で主役を張った男が、次の月に、ものすごいチョイ役で出ていることがあるようです。

Q.再演を重ね、太夫さんや人形遣いさんからの反応は。

早く次を書いてと言われます(笑)。自分自身も一本やってみて可能性の扉をたくさん開くことができ、構想が膨らみました。「其礼成心中」では文楽で描くにふさわしい死というものに逆からアプローチしましたが、もう一つの文楽の特徴と感じているエロスがこの作品にはないので、次はテーマにしてみたい。俳優の舞台だとしないことも、人形たちでならできる気がします。エロチック・コメディーですね(笑)。

Q.地方都市での上演に対して思いはありますか?

これまでに皆さんがご覧になってきた文楽との違いや共通点を見つけていただけたら嬉しいですね。文楽の人たちが誇り高く取り組む強さや美しさも感じ取っていただきたいです。また、耳で聞いて理解できる言葉を選び、可能な限り喋るのと同じスピードで語ってもらっているので予習は必要ありません。文楽特有の、人間にはできないダイナミックなスペクタクルシーンの高揚感を存分に味わっていただけたらと思います。

PROFILE

1961年、東京都出身。日本大学芸術学部演劇学科卒業。大学在学中の83年に「東京サンシャインボーイズ」を結成。以降、脚本家として多くのテレビドラマを執筆。映画も手掛けるなど精力的に活動している。