asten PEOPLE | 2017.2月号

asten PEOPLE

大前光市

ダンサー・演出振付家

左膝下を失いつつもダンサーとして再起し、飛躍を続けている大前光市さん。2月17、18日に静岡市清水文化会館マリナートで舞台「天人五衰」に出演する。大前さんにとって踊ることとは。公演を前に聞いた。

"芸術は、どれだけ思いが強いかが大事。それをいかに描くか。障害の有無は関係ない。"

Q.大前さんのダンスは「義足なのに踊れる」「片足なのに踊れる」ではなく、大前さんでなければできない動きだと感じます。

障害を個性にできたということだと思います。義足を操って踊るというジャンルをつくったというか。事故に遭ってしばらくは、「自分は障害者じゃない」「普通のダンサーに戻りたい」という思いが強く、葛藤しました。でもそこには僕の「可能性」はないんです。障害を受け入れられたら面白いことになった。芸術の良いところは、気持ちや思いを表現するものだということ。人を演じるわけではないので二本足でなくてもいいわけです。イメージをいかに描くかであって、障害の有る無しは関係ない。僕の場合はトレーニングによって体を使って表現する技術を身に付けましたが、いろいろな手法があっていいと思う。

Q.本県の現代舞踊作家・佐藤典子さんとは演出作品で踊るなど親交をお持ちですね。

もう8年ほど交流を持たせていただいています。佐藤先生からはレッスンも受けますが、お茶をしていても指導を受けますね。表現をする人は欲望や何かを成し遂げたいという強い思いがないとだめだね、といった話をよくします。「最近の大前君は注目されるようになってきて注意よね」なんて言われたりして。

Q.今後やってみたい、成し遂げたい、と思っていることはあるのでしょうか。

今まさに取り組んでいることがあって、競技用車いすで踊っています。ヴォーグという動きを絡めるなどして、車いすダンスの表現の幅を広げています。障害があることや車いすが格好いいというはやりを起こしたい。

Q.車いすダンスとも共演したリオデジャネイロ・パラリンピック閉会式のパフォーマンス。これで大前さんを知った人も多いと思います。

あんなに多くの観客の前でライブで踊るというのは初めてだったので緊張しました。会場に出たら人のプラネタリウムのよう。顔は見えないのですが、光と歓声でとてつもなくたくさんの人に見られていることが分かりました。考える暇なんてない、やるしかない、という感じでしたね。準備期間は2カ月ほどしかなく、リハーサルはリオに行ってからを含めわずか10回。短い中でみんなよく頑張ったと思います。

Q.ソロの振り付けはご自身でされたのですか。

そうです。表現したのは「壁」「葛藤」「希望」。おこがましいけれど、自分は障害者の代表としてここに来ていると思い、「パラリンピアンも自分も『障害があるからここまでしかできないだろう』という思い込みを超えたいと戦っているんだ」と世界中の人に伝えたいと思いました。オリンピックが限界へのチャレンジだとしたら、パラリンピックは可能性へのチャレンジだと思うんです。できることの幅を広げる挑戦。多くのメールやSNSのメッセージをもらい、障害への見方を少し変えられたんじゃないかと感じています。

Q.「天人五衰」は三島由紀夫の「豊饒(ほうじょう)の海」第4巻の演劇作品とのことですが、どういったものでしょうか。

白石加代子さんの語り、中井智弥さんの二十五弦筝との共演です。同じ所にいるのですがお互いに触れることはなく、語り、演奏、踊りとそれぞれ異なる手法を出し合って一つの世界観をつくるのが見どころです。同時に、世界観にふさわしいものをふさわしいタイミングで表現できているかといった割合が難しく、話し合いながらやっています。僕はいわば命がある舞台装置のようなもの。正気を失った少年の、その狂気を表現しなければいけません。白石さんも中井さんもプロフェッショナル。二人に比べると出番が少ないこともあり、自分の出番で強烈な印象を残せるようにエネルギーを出し切りたいですね。

PROFILE

1979年、岐阜県生まれ。大阪芸術大でクラシックバレエを学ぶ。卒業後、プロダンサーとしてスタートを切った23歳の時に交通事故で左膝下を切断。片足でも踊り続けるためにヨガや武道、新体操など幅広いジャンルの動きを習得。2008年、アーティスト集団Alphact参加。作品に合わせて長短さまざまな義足を使い分けることで独自のスタイルを築く。