asten PEOPLE | 2020.3月号

asten PEOPLE

大島衣恵

能楽シテ方 喜多流能楽師

大島衣恵さんはシテ方・喜多流初の女性能楽師として活躍し、海外での公演にも参加している。能に親しむポイントなどを聞いた。

"異界や異世界は案外近い?!能が伝える日本人の精神"

Q.能楽には近寄りがたさを抱きがちです。能とはどのようなものなのでしょう。

能の演目には共通して、前半は神や亡霊などの化身が土地の人として登場して人間に思いを語り、後半は真の姿で現れる、という流れがあります。登場する神様は、神聖さはありながら、決して離れたところにいるわけではなく、木に宿っていたり海を守っていたり、と人間の生活に親しい存在。亡霊にしてもやはり、夢の中に現れるといった設定を通し、普段姿を現さないものがメッセージを送る、という筋がベースになっています。海外ではこの精神世界に興味を持たれることが多いですね。

Q.「ここに注目を」という鑑賞のポイントはありますか?

「囃子」では掛け声ですね。実は掛け声の強弱や勢いによって、曲を盛り立てるのと同時に、囃子方同士が信号を送り合っているんです。「もっと気合入れていこう」とか「ここはブレーキを」という引っ張り合いをしています。「舞」では足の運び。演者の個性も出るところで、名手と言われる方は足の動きが美しい。「謡」は流儀によって演出が異なり、喜多流では力強い曲は特に、真っ直ぐに謡います。同じ曲でも宝生流では繊細、など聞き比べると楽しみが増すと言われています。

Q.女性の能楽師は何人かいらっしゃるのでしょうか。

喜多流で舞台活動をしているのは私一人ですが、他の流儀では多くいらっしゃいますよ。たしなみや趣味としてなさる方は圧倒的に女性が多く、多くの後進を育てられた先人もいます。現代は、男性が文化的な趣味に時間を使うのは難しい状況。興味があることに臆せず飛び込むのは女性の方が強いですね。

Q.大島さんご自身はいつから能楽師として生きていこうと心に決めたのですか?

質実剛健で武士好みと言われる喜多流。女性としてプロになれる確信はなかったのですが、子方の時代から舞台に立ってきて、何かしらのかたちで続けたいと思っていました。大学では鼓を専攻し、囃子方や他流の同世代の方たちと稽古することができました。そうした中で宝生流・観世流の女性の方たちの姿にも触れ、自分も続けていけばできることが増えていくかもしれない、という思いを強くしました。時代が変化する中で、少しずつ機会をいただける場が広がっていったという感じです。能もスポーツと同様、実際に見たり体験したりすると見方がまた変わるのではと思います。多くの方に触れていただけたらという思いで務めています。

PROFILE

1974年生まれ。広島県福山市在住。2歳、「鞍馬天狗」の稚児で初舞台。祖父久見、父政允に師事。97年、東京芸術大学音楽学部邦楽科卒。福山の喜多流大島能楽堂を拠点として舞台活動を行い、エリザベート音楽大、おかやま山陽高校などで非常勤講師を務め、国内外で能楽の普及にも取り組んでいる。