asten PEOPLE | 2017.11月号

asten PEOPLE

蒼井優

女優

沼田まほかるのミステリーを映画化した「彼女がその名を知らない鳥たち」が公開中。主人公・北原十和子を演じたのは蒼井優さんだ。蒼井さんの演技に引き込まれ、十和子と、彼女の周りに漂う不穏な空気をリアルに感じてしまう。32歳となった蒼井さんに、作品について、また女優としての喜びを聞いた。

"幼い時は誰でも自分だけが楽しければいい。今、自分だけが楽しい時は楽しいと思えない。"

Q.白石和彌監督とのお仕事はいかがでしたか。

白石さんは質問にいろいろ答えてくださる監督でしたが、現場で芝居をしていると笑い声が聞こえてくるんです。白石さんは(登場人物のような)駄目な人がかわいくて仕方ないらしくて笑っちゃうんですって。私はまだ役がつかみきれているのか分からない手探りの状況だったので、「これってコメディーでしたっけ?」と何度も聞いてしまいました。

Q.役に入る前に原作は読みましたか?

このお話をいただいて原作を読み、そこから一気にまほかるさんの本を読みました。

Q.十和子というキャラクターをどうとらえましたか?

十和子は「さすがまほかるさん」というキャラクターで、演じるとなるとなかなかひどい女性です。ひどい女性ってワンシーンだけなら伸び伸びやれるんですけど、ずっと見ていただかなきゃいけないので、どの程度までやっていいのかの計算は必要だなと思いました。女性の弱さと駄目さと欲と...負のものを集めたらこうなりました、という子。誰でも十和子的な部分があり、みんな何とかそこにふたをして生きているとも思います。

Q.阿部サダヲさんの陣治はいかがでしたか?

蒼井優からすると阿部さんは上の上の上の存在なんですが、十和子にとっての陣治は真逆の存在。下に見て演じなければならないのが難しかったです。現場で見るとうっかりかわいかったりするんです。「だめだめ。私はこの人が嫌い」と自分に言い聞かせていないといけないくらい魅力的でした。

Q.松坂桃李さん演じる水島の薄っぺらさもある意味、魅力的でしたね。

薄っぺらい男を薄っぺらいままできるってすごいですよね。普通、その役のいい所とかを作りたくなると思うんです。役者だなと思いました。最初は笑いながら撮っていたんですけど、水島のあまりのひどさに女性スタッフみんな嫌悪感を抱いていきました(笑)。

Q.竹野内豊さんの黒崎との回想シーンも美しく、陣治との生活との対比が鮮烈でした。

黒崎とのシーンは完璧すぎて、カラオケのイメージ映像のような感覚でした。幸せな感じがするけど張りぼて感もある、危ういバランス。陣治といる時の十和子は黒崎を求め続けているんだけど、黒崎や水島とのシーンを撮っていると「早く陣治とのシーンを撮りたい」と思ってしまいました。

Q.映画の仕事をし始めた頃と今、どちらが演じる喜びを感じていますか?

100パーセント、今です。もちろん10代の時の役は今は絶対できないですし、楽しさもありました。でも今、30代の面倒くささと10代の子どもっぽさを引用して両方を演じられる。それに、幼いころは自分だけが楽しければいいものだけど、年を取ると自分だけが楽しい時は楽しいと思えない。全体で感じる楽しさを求めるようになったと思います。

Q.苦しさがあるからこその楽しさとも言えますか?

自分にかけられる時間は作品によって違いますから、主役の時は「ここはじっくりかける」としてもらえる時もあるけど、そうじゃない番手の時はそれは許されることじゃない。10代の時はできなくて当たり前とされているのがベースとしてあったのが、30を超えるとそれなりにキャリアを積んで「何か持ってくるだろう」と見られているだろうと思う。限られた時間とハードルを越えながら楽しむ、というのは10代にはなかったことです。

Q.アステン読者の皆さんにメッセージをお願いします。

(「かの鳥」は、)キャストが互いに「よくこの役を引き受けたな」と言い合っているくらい、とにかく最低な松坂桃李さんと竹野内豊さん、とにかく汚い阿部サダヲさんを観られます(笑)。なかなかこんな映画もないと思いますので楽しんでほしいですし、知らぬ間に見過ごしてしまっている愛がないか、と考えるきっかけになれば幸いです。

PROFILE

1985年8月17日、福岡県生まれ。99年、ミュージカル「アニー」で舞台デビュー。2001年、「リリィ・シュシュのすべて」で映画初出演。06年、映画「フラガール」で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞と新人女優賞を受賞。映画「彼女がその名を知らない鳥たち」(クロックワークス)は新静岡セノバ9F・シネシティザートで上映中(15歳未満は鑑賞できない)。

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