asten PEOPLE | 2018.9月号

asten PEOPLE

土井善晴

料理研究家

家庭料理は習慣やアイデンティティー、幸せをくれる。「ご飯、みそ汁、漬物」を原点とする一汁一菜でいいから作り続けることが大事―と料理研究家・土井善晴さんは柔らかな口調で語る。9/2(日)16:00から放送のSBS制作全国フルネット番組「空飛ぶかつおぶし~海外のシェフに渡したら、こんな料理になりました~」に出演されると聞き、収録スタジオを訪ねた。

"心地よい毎日の柱が食事。できる料理をしたらいい。"

Q.まずは番組のご感想から。かつお節をめぐる海外事情についてどう思われましたか?

ワサビやユズと同じようにフランス人にとっては新しい食材。シェフたちは多様にものを見る力がありますから、「工夫したい」という気持ちになるでしょうね。食べる側も創作の面白さに目を向けます。

Q.収録の雰囲気はいかがでしたか?

新しいことに対して私も驚きましたし、共演した(春風亭)昇太さんも日本の文化の中にいて「日本人としての見方」をちゃんと持っていらっしゃるからこそ、フランス人のものの考え方に対して感心できるのだと思う。「受け取る力」が素晴らしいのですね。共有できたものがたくさんありました。

Q.かつお節は日本の食文化にとってどのような存在だとお考えですか?

今の人は「だし」にばかり目を向けがちですが、お好み焼きに入っていたり、カボチャやおいもを煮る時にじかに入れたりするのが一般市民の食べ方ですよね。かつお節と煮干しで日本人はカルシウムを随分取ってきたと思います。だしを取ったら食べられるものを捨ててしまうことになるでしょ。それは高級な、ハレの日のお料理です。

Q.「おだし」は特別なものなのですね。

だしというものはかつお節の香りさえしたらあかんのです。昆布の香りもしてはいけない。昆布とかつおが本当に調和して「"水"だけども何でこれはおいしいのやろ。分からない」というのが一番良く、料理人が狙うところはそこ。そんなことを言えるのは人生でも1回2回あるかどうかでしょう。そういった洗練されただしと出合えたら感動しますよね。

Q.著書を通し「一汁一菜」を提案されました。

私たちの仕事場で10人20人のスタッフが集まっての食事では、ご飯を炊いて具だくさんのみそ汁を作れば間に合う、というのが日常なんですね。世の中の人が晩の献立に困っていることに対して、「いい悩みだからもっと悩んだらいいね」と思ってたんです。でも、多くの女性がその要求に本気で苦しんでいる。遅くに帰って、そこから料理。疲れても頑張ってる。結婚する時は「よし料理頑張ろう」と思うし、子どもが生まれたら「自分の手料理で育てたい」というように、料理で家族を喜ばせたい、健康を守りたい―と誰もが根本的に思っているんだけど、したいことができない。一番大事にしていることを「そんな大変なん、やめといたらいいやん」と軽く言われたらそれもまた腹立つわけよね。では何を実現しようかとなったら、「できる料理を毎日したらいい」と思うんです。

Q.確かに料理が気重になっていました。

今の人だけが忙しいのでなく、日本人は昔からずっと仕事していて、例えば畑仕事しながら女性が一足先に帰って家族が食べるものを用意する、ということをしてきたわけですよね。それができたのはなぜか。ご飯やかて飯を炊いて、いろりの鍋に何でも入れて、みそで味を付けたらそれでもう出来上がっているわけです。私たちが実際に旅に行って、宿のいろりにきのこ汁があって地鶏をつぶしたのなんかが入っていて、ご飯と漬物が出てきたら、こんな豊かなごちそうないよね。元々あるものを「それでいいん違いますの」というのが一汁一菜というスタイルなんです。勉強会でそういった話をしたら、悩んで苦しんでいた人たちが本当に喜んでくれたので、これは早く本にしようと思ったわけです。

Q.静岡とのご縁はありますか?

富士山はもう大好きです。何度も登っているし、富士登山競走というのにも2回チャレンジしました。結局ゴールはできませんでしたけど1回は8合目まで行きました。よく使う目黒線の電車からも気を付けていると富士山が見える瞬間があって、そんな時は「何かええことがあるんじゃないか」と思います。だから静岡の人にいい人が多いのは富士山に守られながら暮らしているからかなと思いますね。

PROFILE

どい・よしはる 1957年、大阪生まれ。大学卒業後スイス、フランスでフランス料理、大阪で日本料理を学ぶ。料理学校勤務後、92年に独立。家庭料理を通じて日本の伝統生活文化を現代の暮らしに生かす術を提案。食育の講演会、出版、メディア、大学などで指導。著書に「一汁一菜でよいという提案」「おいしいものまわり」(いずれもグラフィック社)など。

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