asten PEOPLE | 2020.9月号

asten PEOPLE

鶴澤清志郎

文楽・三味線

「人形浄瑠璃 文楽」は江戸時代の大阪で生まれた浄瑠璃と人形芝居が結びついた伝統芸能で、語り手の太夫(たゆう)、三味線、人形遣いの3者が一体となって舞台をつくり上げます。10月11日(日)に焼津市の大井川文化会館ミュージコで開かれるグランシップ出前公演に出演する三味線の鶴澤清志郎さんが、文楽の魅力を語りました。

"三味線は舞台を率いる影の指揮者 劇場で鑑賞し、文楽の歴史感じて"

Q.文楽での三味線の役割は何でしょうか。

舞台をつくることですね。旋律を崩したり、テンポを変えたりしながら、人間ドラマや人間そのものを表現します。さまざまな事情を抱えた人物が描かれているので、整いすぎてもよくない。例えば、頼りない男を表現するには多少下手に聞こえた方が観客に響くところがあります。太夫と人形遣いが力を出せるよう、弾きながら舞台全体を操作する影の指揮者のよう。そこにやりがいがあります。

Q.文楽は太夫、三味線、人形遣いの「三位一体」といわれます。

それぞれが一生懸命演じています。合わせる、なじませる、というより「闘い」のつもりです。ボクシングに例えると、勝ちにいくボクシングもあれば、ダウン狙いもある。勝っても負けてもKO以外はいらない人もいるでしょう。そういう真剣勝負が好きです。ポイントを稼ぐより、やるかやられるか。文楽もボクシングだと思って見てもらえれば。

Q.信条は。

緊張しすぎず、かといって緩みすぎず、相手が誰でも変わらず演じるように心掛けています。古典を教わった通りに淡々と。でも気合は乗せて。弱点が強みになることもあるので、卑下することはないと師匠に言われました。自分が弱点だと思う頭の硬さが個性になりつつあるのかもしれません。直線的で少々武骨な芸があってもいいのかなと。色っぽいものはちょっと苦手です。

Q.故郷の長野・飯田市では地芝居の人形遣いをしていました。なぜ三味線を選んだのでしょうか。

飯田市には文楽に負けないくらい歴史のある地芝居が残っていて、そのうちの一つの座で人形遣いをしていました。高校3年の時、大阪にプロの劇団があると聞き、国立文楽劇場へ高速バスで行って研修生になることを決めました。研修中、三味線だけは一日中弾かないと周囲に追いつきませんでした。この先数十年、一番苦手なものをやった方が楽しいのかな。どうせなら、できないまま終わった方が面白いと思い、決めました。

Q.新型コロナウイルスの影響で公演が中止や延期になる間、どのように過ごしましたか。

曲をじっくり勉強でき、芸の貯金ができました。6、7月、磐田市内の中学校での出前講座やグランシップでの学生向け講座で久しぶりに人前で演じ、笑顔に励まされました。実際の音や動き、息遣いなどを感じてもらわないと、本当の意味で自分たちがやっていることが伝わらないと思います。静岡の人はじっくり鑑賞して、質問もしてくれるので、関心を持ってくれていると感じます。

Q.10月の公演の見どころを教えてください。

舞台も音楽も素晴らしい演目なので、見たら文楽に関心を持ってもらえるのでは。事前にストーリーを大雑把でいいので頭に入れるなど、ほんの少しの準備をしてもらえれば、より楽しめると思います。僕らは生でこそ力を発揮できます。近所に来たことをご縁と思って見に来てもらい、文楽が400年続いた理由に思いをはせてもらえたらうれしいです。

PROFILE

1992年、国立劇場文楽第15期研修生になる。94年、鶴澤清治に入門、鶴澤清志郎と名乗り、国立文楽劇場で初舞台を踏む。2003年、国立劇場文楽賞文楽奨励賞、大阪舞台芸術新人賞を受賞、13年には大阪文化祭賞グランプリなど多くの賞を受賞している。※グランシップ出前公演は10月11日、焼津市の大井川文化会館ミュージコで。開演は昼の部13:00、夜の部17:00。一般3,700円、昼夜通し券6,660円、こども・学生1,000円。

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