スペシャル企画 | 2019.1月号

スペシャル企画

一歩一歩のSDGs

私と世界をつなぐ17個の箱

「サスティナビリティ(持続可能性)」という言葉を耳にするようになったり、「SDGs(エスディージーズ)」のカラフルなロゴを目にする機会が増えたり。新しく接するものは難しくてとっつきにくいもののように思いがちだけれど、どちらも「人類が直面している課題、他人事じゃないよね」というシンプルなこと。ジョイフルに「持続可能な発展」を実践する人たちに会ってきた。

途中でやめたら失敗 できるまで続けてみる
クレアファーム社長・司法書士 西村やす子さん

 司法書士としてすでに独立していた西村やす子さんが、なぜ静岡市にオリーブ畑を作り、商品化して観光資源化にまで取り組む「クレアファーム」を起業したのか、ずっと気になっていた。
 「農家の相続に関わる相談を受けるうちに、多くの方が継承について悩んでいること、すでに土地は耕作放棄地になっていて再生もまた難しい現状を知って、『農業は国の根幹。次の世代に残せる産業のかたちにできないか』と思ったんです」
 着目したのがオリーブオイル。消費は増えているのに流通しているのは酸化したものばかりで本当の味が知られていない。規格外の野菜や水産加工の副産物といった食卓に届けられていない地元食材をオリーブオイルを使って付加価値の高い商品にできないか。自分で収穫した実を搾ることができる農園なら観光の場にもなる―。業界の人間でない自分の方が、常識から離れて新しいことができるのでは、と考えた。「新たな仕組みをつくって、みんながそれを使ってくれたらいい」
 自らアクションを起こしたのには、司法書士事務所開業を機に入会した静岡青年会議所での経験があった。まちづくりという大きな視野、長いスパンが必要とされる取り組み。それぞれが得意な分野を生かして関わることで、一人では成しえないことも前に進めることができる。「人をどう巻き込むか、トレーニングになった」と言う。

 SDGsについてどう捉えているか、と尋ねると、「何とかこの地域を元気にするために、と取り組んでいる人にとっては『何を今さら』というようなことだと思う。でも、現状に一定の満足をしている人は『何かしなくちゃとは思うけど、自分たちには難しい』となるでしょうね」とシビアだ。
 企業や行政...組織が大きいほどリスクへの不安も大きい。リスクを被らないための仕事に追われて、新たな挑戦は後回しになりがちだ。でもそれでは「以前のような利益が出ない」「同じように指示しているのに人が動いてくれない」というジレンマから抜け出せない。
 西村さんはまず、雇用する側が働く人の多様な価値観を認めることが今求められている、と語る。地域をより良くするために働きたいという意欲を、すぐに結果が出ないから、とそぐのはご法度。「17の目標どれも、どういう気持ちで臨むかじゃないでしょうか。だって価値を感じられることだったらずっと続けていられるでしょう?」
 「人をジャンプさせるのは成功体験の量」とも考える。子どもの頃、何かにチャレンジして褒められたこと、ありがとうと言われてうれしかったこと。失敗を繰り返した先に得られた小さな成功体験の積み重ねが今の自分をつくっている気がする、と言う。
 誰かの役に立てたら、という個人個人の気持ち。そしてそれを支援し評価する仕組みや制度が欠かせない。
 「地域資源はまだまだある。売れる物を作って売れる所へ持っていく仕掛けが大切。農業と福祉の連携も模索したいし、海でも何かできるんじゃないかと思う。これからも多くの仲間を巻き込んで、次世代につながる地域プロジェクトをたくさん立ち上げていきたいんです! 」
 西村さんの話に耳を傾けていたら、SDGsのアイコンが、地域を元気にするものが詰まった17個の箱に見えてきた。それが広く高く積み重なって、世界を変えていく。

正しいことであれば隙があったっていい
ヒノキクラフト 代表 岩本雅之さん

 ショールームを訪ねると、ドアを開ける前からふわっとヒノキが香ってくる。「ヒノキクラフト」はその名の通り、主にヒノキを使ったデザイン家具を製造するものづくり企業。代表の岩本雅之さんは「健康のこと、環境のことを考えて、シンプルな暮らしのためのものづくりをしたい、ということを20年近くブレずにやってきました」と振り返る。無垢(むく)のヒノキを使ってナチュラルオイルで仕上げる。肌触りの良さ、白木の明るさ、木目の美しさ。製品は特に、長く使えて子どもに安心安全な物をと願う親世代に人気だ。
 岩本さん自身は広告のアートディレクターを経て、30代で家具デザインや製造、造形活動に転向した。さまざまな木材を扱い、実態を目の当たりにして、県内で植林・伐採されたスギ・ヒノキを使えば環境負荷が抑えられると思い至った。
 「スギやヒノキなどの針葉樹林は人の手で作ってきたもの。ちゃんと使ってあげないと、山は荒れ、川や海にまで影響が及びます。世の中、宇宙に夢が向かいがちだけど、どこまで行ってもこの惑星のような豊かな自然はない。地球は奇跡的。守らないと」とユニークに語る。
 「環境配慮への取り組みを法人や企業が取り組む時、全てが完璧でないとつつかれちゃうんじゃないかと尻込みする傾向があるけど、『隙があったっていいじゃん』と僕は思う。こういうことをやっていること自体、自分も心地いいわけだから」

異業種の人がつながり合う昔の風景が好き
手造り家具の金鱗 代表 石川智規さん

 ナラやクリといった広葉樹材でオーダー家具を製造する「手造り家具の金鱗」。やはり山林を豊かな姿で未来へつなぎたいという思いから、代表の石川智規さんは新たな価値の創造に挑んでいる。
 山の奥深くまで針葉樹の人工林が広がる静岡県。「国の政策に静岡の人たちが真面目すぎるほどに取り組んだ結果」と石川さんは思う。広葉樹は市場もないため値さえつかない。手入れされていないため用途も狭く、まきになるのがせいぜいだった。「0円だったものが何円かで売れれば、林業を守る助けになる」。森町森林組合など林業家や製材所とともに「ふじのくに県産広葉樹ものづくりネットワーク」をスタートさせ、活用・流通ルートの構築を目指している。広葉樹は実を付ける。切っても落ちた実が若木となり、野生動物の命もつなぐ。
 職人としては製品のその後も見届けたい。「木は生き物。作る時に"相"を見てある程度湿度などによる変化を読んでいますが、お客さまには不具合が出たらいつでも言ってね、と伝えています」。長い付き合いができるのは、オーダーメードというベースを守っているから。経営を考えればせめぎ合うものはある、と明かす。「でも僕自身、刃物屋さんがいて、塗料屋さんがいて、材木屋さんがいて...という昔の風景が好きなんです。いろいろな職種の人がいて、気軽に相談できる関係が互いの商売を支える。みんなが次世代につなげられるように、まずは自分が続けていかなきゃ」

SDGs COLLECTION
1.12(土) 10:00~20:00(予定) ツインメッセ静岡・南館大展示場

フェアトレード商品や環境に優しいアイテムを集めたマルシェ、ゲームを通し親子で学ぶコーナー、モデルの冨永愛さんを招いたステージなど、SDGsを身近に感じるイベントを開催!

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